「松田優作の再来やね」
東野幸治は、深夜に飲み歩く小峠英二のVTRを観てそう感想を述べた。これは東野がMCを務める『不夜城はなぜ回る』(TBS)で不定期に放送される企画「小峠英二 不夜城を飲み廻る」。普段、この番組は企画・演出を担当する大前プジョルジョ健太が、夜中に灯りが点っている建物=不夜城を自ら取材している。彼の温かい人柄そのものが出た番組だ。だから、いわゆる「芸能人」が主役のコーナーができてしまうと、安易なテコ入れか?などと警戒してしまうが、この企画にそんな嫌な感じはまったくない。
そもそも企画の発端はゲスト出演した際に、夜中に知らない店を巡りながら飲み歩くのが好きと漏らしたこと。そのため小峠が普段どおり飲み歩く姿を自分で撮る形式。そうは言ってもタレントだから自分の状況を説明しながら、食事やお酒の味をレポートするものだが、小峠は違う。サービス精神ゼロのカメラアングルで、カメラを意識して喋るわけでもなくただただ静かに飲む。『有吉クイズ』(テレビ朝日)の「有吉とメシ」やドラマ『作りたい女と食べたい女』(NHK)もそうだが、あえて「食レポ」せず黙々と食べる生々しい飲食シーンがひとつのトレンドなのかもしれない。小峠が好みなのは「ストリート感」のある店。第1弾ではそれを「アンダーグラウンド的なね。血が滾るというか、毛穴が開くというか、細胞が躍るというか。それだけ覚悟を決めて飲んでるんでね。タダじゃ帰さねえぞみたいな。そういう雰囲気の店が好きっすね」と語っていた。
今回訪れたのは、大田区大森(これもだいぶ時間が経って会話の中でようやくわかる)。途中から男性と合流するのだが、いつものように説明は一切ない。これまでは現地で出会った人とそのまま一緒に飲んでいたが、今回は会話から察するに近くに住んでいる後輩芸人を呼んだよう。途中まで声が聞こえるだけだから誰かもわからない。この説明のなさがたまらない。
小峠はお店を変えるのが好きとこれまで頻繁に移動していたのだが、今回の1軒目が居心地が良かったようで珍しく2時間以上滞在。トイレに行った際、音が聞こえたという理由で、2軒目はレゲエバーへ。すると「おい、小仲、めちゃくちゃいい店だぞ」と後輩をわざわざ呼び寄せて言う(ここで初めて後輩の名が「小仲」だということがわかる)。「デカボリュームがいい」と。曲をリクエストしたり、それに合わせ体を揺らしたりして、完全に店に溶け込む小峠。まったく芸能人的な壁がない上に、東野が評すようにカッコよくてキマっている。説明がほとんどないからこそ、その映像が小峠の“美学”を雄弁に物語っていた。
INFORMATION
『不夜城はなぜ回る』
TBS系 月 23:56~
https://www.tbs.co.jp/fuyajo_tbs/