世界中が激しいインフレに見舞われている。経済の専門家の間では、インフレはコントロールできる、理論的には決着のついた現象と考えられていた。ではこの現状はなんなのか? 自身の過去の見通しの甘さも率直に認めながら、著者は懸命に難題に挑み、その成果を本書で世に問うた。
「好評を博した前著の『物価とは何か』は理論的な側面の強い本でした。その反響の大きさを鑑みた上で、時事的な側面を強く打ち出した本を書きたいと著者から提案があり、緊急出版することになったんです」(担当編集者の青山遊さん)
“現在のインフレはロシアのウクライナ侵攻が原因”とする広く流通した仮説を著者はデータで否定する。あくまで戦争は一因。なぜなら過度なインフレの兆しは2021年に既にあったから。大きな要因はパンデミックであり、しかも影響は一時的ではない。消費者と労働者の「行動変容」で、経済活動が再開しても問題はすぐには解消されない。さらに日本では、世界でも稀な長期デフレで賃金が上がらない中で物価が上昇し、問題はより深刻だという。
「経済学はモデルで考える学問なこともあってか、素人にとっては現実から遊離した印象になりがちです。しかし著者の書くものはどこか人間臭く、自分たちの話だと感じられる点が魅力。それは著者自身の持ち味だと思います」(青山さん)