これにはそばという作物の特徴に起因する部分も多い。そばは虫媒花で、在来種は他の種類と交雑すると衰退する。つまり、代々作付けする品種を守り作り続けるには、他種と一定距離の隔離がないと維持できない。その結果、それぞれが小規模で違う品種を作付けしてきたわけである。もともとそばの作付けをしていなかった北海道はその点、大規模化で同一品種を播種して大量に収穫することが可能だった。
秦野を含む神奈川県下はそばの栽培はほとんどなかったこと、そして首都近郊農業が高齢化などで衰退していたことが、皮肉にも石井社長が大規模栽培できた要因でもあるわけだ。
ウクライナ危機で輸入そばの価格が暴騰
さらに石井社長は6次産業化のメリットを力説する。ウクライナ危機で輸入そばの価格の暴騰が続いている。輸入そば粉の値段はすでに国産の安値の下限を上回ってきているのが現状だ。大手製粉会社では2023年4月から輸入そば粉の値段を1キロあたり55円値上げすると告知している。
つまり、輸入そば粉を使用している立ち食いそば・大衆そば屋では、足元を見て値上げを画策している諸外国の動向に翻弄され続けることになる。
かたや国産そば粉は比較的順調に収穫されても値段が高止まりしているため、古いそば粉がダブつき気味だという。これにはそば作付けに対する補助金「水田活用交付金」の交付が行われてきた背景もあるが、今後、これを厳格に見直すという動きもみられる。交付金がなければそばの作付けをやめるという農家も多いと聞く。まとめると次のようだ。
●日本のそば生産農家は小規模で均一な粉が入手しにくい。
●輸入粉の暴騰に翻弄されている。
●交付金頼りに作られてきた国産粉はダブつきがでることもあるが、政策に左右される可能性がある。
もはや「待ったなし」の状況
乾麺や大量の低価格そばを作る場合は均一な品種が求められるため、どうしても海外のそば粉に頼ることになると専門家は指摘する。つまり日本でも「大規模経営」「6次産業化」が待ったなしだということである。
「一定のそば粉を収穫できて、しかも3回収穫できれば十分量を確保できる。そのそば粉を使って商売ができる。安心安全な自分の粉で勝負ができる。それには2次産業・3次産業が紐付きされていることが不可欠。いままではそれぞれの餅屋は餅屋があったが、それではスマートに流れない。一気通貫に進めることが大事だね」と石井社長はいう。