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「失ってしまったものは取り返しがつかない」…東出昌大(35)が最新主演映画で伝えたかったこと

東出昌大インタビュー#1

2023/03/04
note

――東出さんも三浦さんも壇先生とかなり深く交流されたんですね。

東出 そうですね。ある時、三人での食事の席で壇先生がお酒に酔われて「明日地球が滅ぶとしたら、檀 俊光は何を食べると思う?」と僕らに質問されて。三浦さんが「何ですか?」と訊くと「壇 俊光はそこで諦めるような男じゃない。最後の最後まで戦い抜くから、飯は何も食わん!」って(笑)。そこに僕と三浦さんで「何じゃそりゃ!?」って突っ込めるくらいの関係性にはなっていましたね(笑)。

 壇先生の年齢は金子さんの一つ下なんですが、先生は金子さんのことを「いっこ上の弟」と語られていました。今でも金子さんに対して強い思い入れをお持ちで、「金子さんにこの映画を魅せたいな」と自慢気に話す時もあれば、「金子さんはこの映画を観て何て言うだろうね」と考え込まれた時もあって。

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 壇先生もずっと葛藤を抱えていた。一審で有罪になった時、「罰金を払ってもいいから、もうプログラミングをやりたい」と言う金子さんに、壇先生は「後世の技術者のために闘いましょう」と言った。すると金子さんは「壇先生は僕にパソコンを触らせたくないんですか?」と寂しそうにおっしゃったそうです。

「闘い続けて良かったのか、本当は今も分からない」「この裁判に携わった人間は警察、検察、被告、弁護士の全員が敗者だ」。壇先生はそう語っておられました。

©深野未季/文藝春秋

「自分には何が足りないのか?」「人って何なんだろう?」

――東出さんとしては、この映画をどう観客に受け止めてほしいですか?

東出 まずは金子勇という失われた天才が日本にいたことを知ってほしい。そして物事の複雑性や多面性について考える一つのきっかけになればと願います。この物語は主に弁護団側が提示した素材が基になって生まれました。弁護側から見たら金子さんは決して悪人じゃなかったですし検察側の横暴も感じました。でも、もし検察側や警察側の視点から物語を描いたら、金子さんはもっと悪人に描かれるかもしれない。

 情報が氾濫する今、現代社会では善悪が二元論で語られる場面が多いと感じられます。一方の情報で分かったつもりになってしまうことも多いけれど、大抵の物事はもっと複雑なんだろうなあと、考えるきっかけにしてもらえたらうれしいですね。

 失ってしまったものは取り返しがつかない。そこを悔やむだけではなく考え続けないとすぐうやむやにしたり、間違いを繰り返してしまう。人ってそういうものだと思います。僕もこの数年、「自分には何が足りないのか?」「人って何なんだろう?」と考える時間を過ごしてきたので……。(後編へ続く)

撮影=深野未季/文藝春秋

ヘアメイク=AMANO

スタイリング=檜垣健太郎

INFORMATION

映画『Winny』は2023年3月10日(金)TOHOシネマズほか全国公開
公式HP:winny-movie.com 
Instagram:winny_movie_official
Twitter: @winny_movie
<本予告>https://youtu.be/qGBtaIPNbuM

記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。

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