東出昌大が天才プログラマーにのめり込んでいったワケ
――壇先生とはどんなお話を?
東出 壇先生は「プログラミングバカ」とおっしゃっていましたが、とにかく金子さんはいつもプログラミングのことを考えていたそうです。普通のプログラマーが2年は掛かるようなプログラミングを2日間で作ってしまう天才だった。もし裁判で7年もの歳月を浪費させなかったら、一体どんな発明を世に残していたのか。そんな夢物語が未だ業界関係者の間で語り草になっている。そうした事実を知れば知るほど、どんどん金子さんにのめり込んでいきました。
――役作りにあたって参考になるような金子さんの資料はあったのでしょうか?
東出 映像はニコニコ動画とYouTubeにちょっとだけ残っている程度でした。それらを参考に「こんな風に話すのか」「こうやって体を揺らすんだな」と形態模写のように探っていきました。あとは壇先生のお話がとても参考になりました。例えば、ある時、壇先生が金子さんの特徴的な身振り手振りをご本人に指摘したら、「僕、そんな動き方しませんよ~」と言いながらもろに両手を振っていたというお話を伺ったりして(笑)。
――いわゆる“天然”っぽい側面があったんですね。
東出 そうですね。でも何より重要だったのは、「とにかく金子さんは他人を決して悪く言わず、愚痴もほとんど口にしなかった」というお話でした。壇先生や弁護団のみなさんが「警察を信じては駄目だ」と言っても、むしろ頑ななまでに「いや、警察にも良い人はいますよ」とおっしゃっていたそうで。“戦う”よりも“受け流す”姿勢が金子さんなりの美徳というか達観だったのかもしれない。そんな印象を受けました。
――実際、そうした金子さんの人柄は劇中でも描かれていて。東出さんが演じる金子さんを好きになってしまう観客も多いだろうなあと感じました。
東出 ありがとうございます。自分が生きる上での喜びを見つけられた人には、どこか憎みきれないというか責めきれない魅力がある。そういう人が“天才”と呼ばれるのかもしれません。そうした人間的な魅力はなるべく大切に演じようと思いました。
その一方で、史実だけではなく、金子さんがひとり家の中で悶えるような苦しみや悔しさも演じられたらと思いました。だって、金子さんだって本音ではかなり悔しかったと思うんです。ただただ目の前に聳える山を登るようにプログラミングに熱中したら、結果的に家族に迷惑をかけてしまった。しかも、それほどまでに大好きだったプログラミングも、係争中、7年半もの間、全くパソコンに触れさせてもらえなかった。(※特任助手として勤務していた)東大もクビになって、いろいろな人との別れもあって。悔しかったからこそ、達観せざるを得ない部分もあったのだろうな、と。そうした金子さんの悔しさのレイヤーをなるべく丁寧に演じることも心掛けました。