子どもを虐待してしまう親の中には、児童相談所で「虐待なんかしていません」と自分の行為を認められず、子どものための話し合いもままならない人もいるという。そうした親と「対話」し、困難を抱える親と子が親子関係を再構築するための支援を行っているのが、元児童相談所の職員で、現在は認定NPO法人チャイルド・リソース・センター代表理事を務める宮口智恵氏だ。

 ここでは、宮口氏の著書『虐待したことを否定する親たち 孤立する親と子を再びつなげる』(PHP新書)より一部を抜粋。宮口氏が親子への支援が必要と考える理由を紹介する。(全2回の1回目/2回目に続く)

※本記事に登場する事例は、複数の事例を参考にして作成した架空ケースです。

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写真はイメージ ©️AFLO

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今日、誰を頼りにしたらいいの?

 私は現在、NPO法人で、困難を抱える親と子に、親子関係を再構築するための支援を行っています。このNPO法人を始める前には、児童相談所の児童福祉司として働いていました。

 児童相談所は虐待のほか、不登校、非行、障がいなど、子どもに関するあらゆる相談に対応する行政機関です。児童福祉法に基づいて設置が義務付けられ、全国に229ヵ所(2022年、7月1日現在)あります。

 児童相談所についてよく知られているのは「一時保護」ではないでしょうか。児童相談所では虐待など子どもが危険な状況だと判断した時に、子どもの安全を守るために、親から分離し一時保護する必要があります。

 このようにして一時保護された子どもは、一時保護所という児童相談所に併設されている専門施設、または乳児院、児童養護施設や里親などに一時保護を委託されて過ごします。子どもは全く知らない場所である一時保護所や委託先の施設で、他の子どもたちとの共同の生活を送ることになります。

 私は過去児童相談所で、「親子が分離される場面」に多く立ち会ってきました。そして、現在はNPOで分離後の「親子がやり直していく」お手伝いをしています。児相とNPOで働いた年数が今年でちょうど同じ15年になりました。これまで合わせて1000人以上の親子に出会っています。

 そして今思うことは、

『目の前の1組の親子をしっかり見ること』

 が、親子支援の原点だということです。

 児童相談所で勤務していた頃、常時、1人の児童福祉司が80~100件ほどケースを担当している状況でした。とにかく毎日起こる緊急な出来事を最優先していかないと1日が終わりません。「1組の親子を丁寧に支援している余裕なんてない。そんな悠長なことは言わないで」。当時の私からの反論の声が聞こえます。でも、その当時の私に言ってあげたい。

 だからこそ、まずは目の前の1組の親子を見ることからだ、と。