子どもを虐待してしまう親の中には、児童相談所で「虐待なんかしていません」と自分の行為を認められず、子どものための話し合いもままならない人もいるという。そうした親と「対話」し、困難を抱える親と子が親子関係を再構築するための支援を行っているのが、元児童相談所の職員で、現在は認定NPO法人チャイルド・リソース・センター代表理事を務める宮口智恵氏だ。

 ここでは、宮口氏の著書『虐待したことを否定する親たち 孤立する親と子を再びつなげる』(PHP新書)より一部を抜粋。宮口氏の親子支援への思いを紹介する。(全2回の2回目/1回目を読む

※本記事に登場する事例は架空ケースです。

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写真はイメージです ©iStock.com

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親をモンスターにしない

 再びお伝えします。初めから、虐待をしようと思う親はいません。 

 親が安全な「誰か」とつながること。

 子どもが安全な「誰か」とつながること。

 虐待を防ぐには、この2つが必要です。こんなシンプルなことは本質ではないと思う方もおられるかもしれません。しかし、「つながる」ことで支援の可能性が生まれるのです。「なんか、気になる」という子どもや親のシグナルに気づく、そしてその意味を理解し応答する 大人が1人でも増えることを願って、この文章を書いています。

「虐待する親」というレッテルを貼って「困っている親」を遠ざけてはいけないのです。遠ざければ遠ざけるほど、親は「モンスター」になり、敵になります。これは子どもからさらに支援を遠ざけることになります。

 子どもが未来を生きていくために、親をモンスターにしてしまってはいけないのです。それを私たちはこれまで出会った親たちから教えてもらいました。きっと、虐待をする親たちの中には、自身の親がモンスターとして心に住みついている方がいます。その恐怖に今も怯えていることがあります。モンスターは心の中で大きくなったり、小さくなったりします。

 そして、このモンスターはどんな人の心の中にも必ずいます。なぜなら、子どもを100パーセント傷つけない完璧で素晴らしい親になることは不可能だからです。

 いつも保育園で見かける優しいお母さん、なんでもできる職場の先輩、子育て本を何冊も出されているパワフルな先生、ベテランの施設の先生、何人もの子どもを養育した里親さん。

 どの人も魅力的で素晴らしい子育てをしているように見えますが、皆同じです。きっと誰もが自分の中のモンスターと付き合いながら、日々格闘しているのです。落ち着いて見える人とそうでない人との違いは、自分の中のモンスターが見えているか否か、なのかもしれません。

・モンスターは1人にしておくと肥大化します

 

・モンスターは子ども(他者)の一定の行動に恐怖を感じ、暴れます

 

・モンスターはストレスに弱く、より弱い者に矛先が向かいます

 私たちは次世代に、心の中のモンスターを引き継いではいけないのです。そのために子どもを養育する大切な大人(親、里親、施設の先生)を1人にしてはいけないのです。