「父親が『ナマポ』という言葉を口にするのを聞いたときはショックや怒りよりも先にすごい嫌悪感が襲ってきて、硬直することしかできませんでした。それは言っちゃいけない言葉だろうと……。離れて暮らす親が“ネット右翼”化したという話は聞きますが、自分が体験することになるとは思ってもいませんでした」
そう語るのは今年1月に出版された『ネット右翼になった父』(講談社現代新書)の著者・鈴木大介さん。父親が2016年に末期がんを宣告され、鈴木さんは通院の手伝いなどで頻繁に実家へ戻るようになった。
しかしそこで目撃したのは、「火病(ファビョ)ってるなんて言うだろ」「しょせん女の脳は」と発言し、寝るときも枕元のPCでYouTubeのテキスト読み上げ動画を垂れ流す“ネット右翼化”した父親の姿だった。
がんの宣告から3年後の2019年、父親が77歳で亡くなったとき、鈴木さんは緩和病棟のベッドでその手を握っていた。しかしその心中には「これでよかったのか」という疑問以外、何ひとつ感情が生まれなかったという。
難病を抱えた父親との“断絶”を経験し、その溝と向き合った7年間を鈴木さんが振り返った。
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――お父さんの口から初めて“ネトウヨ”的な発言を聞いたのは、いつ頃でしたか。
鈴木 意識するようになったのは2016年に父が末期がんと宣告された後でした。それまで父とは年に1~2回顔を合わせる程度だったのが、毎月病院まで車で送り迎えをするようになって、一緒にいる時間がぐっと増えました。その道中や、実家にいる時に父の発言を聞いて衝撃を受けたんです。
「聞いた瞬間に感じたのは、耐えがたい嫌悪感です」
――どんな発言だったんでしょう。
鈴木 「火病る(ファビョる)」や「ウリジナル」などは僕にとって「ネット右翼しか使わないワード」だったので特にぎょっとしました。他にも「シングルマザーはひとりでシングルマザーになったわけではない」といった自己責任論、「ナマポ」を始めとする社会的弱者への差別、そしてLGBTQ当事者への攻撃的な発言もありました。
聞いた瞬間に感じたのは、耐えがたい嫌悪感です。僕はそれまで社会的弱者の代弁をしたいと願って著作活動をしてきている人間です。自身の過去の仕事を全否定されているような、足元の世界が崩れ落ちるような気持ちで、喋っている父の横で固まることしかできませんでした。