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さらわれて性奴隷

「性奴隷として2カ月間、監禁されました」

 え、ちょっと待って、いまなんと?

「性奴隷。シャブ(覚せい剤)で玩具(おもちゃ)にされるんです」

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写真はイメージ ©AFLO

 あえて性奴隷という強い表現をするのは、そうとしか言えないからだ。セックス以外に男の目的はなかったと廣瀬は断言した。

 覚せい剤を打つと全身が性感帯になり、ものすごい快感に襲われる。一軒家で体験したとき気分を悪くした彼女でさえそうなった。しかも、それは覚せい剤の効力がなくなるまで持続し、性欲も止まらない。

 覚せい剤使用者は、眠気を覚ますためにやった、集中力を増すために使用したと言ったりするが、廣瀬に言わせればそんなのはオマケみたいなもの。なんだかんだ言ってもセックスが最高だから打つのだという。自分はその男が大嫌いだった。憎かった。それなのにセックスするたびに震えるほどの快感を得た、と。

 あまりのことに、僕は咄嗟(とっさ)に反応できなかった。男は、家出娘だからさらっても問題ないとチャンスをうかがっていたのだろう。

「なんでそうなっちゃうんだろう」

 カンゴローも目を丸くして硬直している。

絶体絶命の危機

「十数階建てのマンションの10階以上の部屋に閉じ込められてたの。外鍵を閉められてしまうので逃げられない。窓から飛び降りれる高さじゃないし、泣き叫んでも誰の反応もない。その人が部屋にいるときが唯一のチャンスだから逃げようとするんだけど、いつも見つかってぶっ飛ばされる。で、覚せい剤を打たれる」

 いくら廣瀬の鼻っ柱が強くても子どもだ。クスリで朦朧(もうろう)としていることもあって脱出方法が思い浮かばなかった。2カ月は長く、中毒者になってもおかしくない期間だ。

 ある晩、逃げた。その日は男が酒に酔って帰宅し、眠り込んでしまったのだ。いましかない。素足でマンションを飛び出し、民家に救いを求めた。叩けば埃(ほこり)の出る身である。電話したのは警察ではなく父だった。正解だったと思う。父はすぐにやってきて、事情を聴いてから相手の男に電話をしてくれた。

「うちの娘はまだ15歳なんだから、警察を間(あいだ)に入れたらあんたも大変なことになる。娘とは一切関わりを持たないでくれ。それが守れないならいまから警察に通報する、と言ってくれました。おかげでそれ以後、その人が私に近づくことはなくなったんです」

 監禁してシャブ漬けにしたのに警察沙汰にならないなんて解せないが、現実的な解決法ではあっただろう。

 娘が家出しても父親は気にしないかと思えば、いざとなると飛んできて、怒鳴ったりうろたえたりせずに現実的で最善と思える対処をする。

 しかし、それ以上の、病院で検査を受けさせるようなことはしない。娘は娘で、家の冷たい雰囲気が嫌だったはずなのに、父は仕事人間だが優しい人だし恨みもないと言い、こういうときには頼る。僕にはそれが、うまく親子関係を築けず、どう接したらいいのかわからなくなった不器用なふたりが、妥協点を探りながらとった行動のように思えてならない。(#2に続く)

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