前科や前歴がある人を従業員として雇い入れるため、「協力雇用主」に登録しようとした経営者の廣瀬伸恵(ひろせ・のぶえ)さん。ところが、いざ地元の就労支援担当者を訪問すると、暴走族総長、売人で2度の服役、ヤクザとの付き合いなど“過去の自分”が大きな壁として立ちはだかる……。
この新しい試練を、彼女はどう乗り越えたのか? 北尾トロ氏による新刊『人生上等! 未来なら変えられる』より一部抜粋して紹介する。(全2回の2回目/前編を読む)
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「過去がひどすぎるよ」
正規のルートで出所者を雇い入れることができ、国から支援まで受けられるなんて、まさに廣瀬のためにあるような仕組みではないか。
が、登録すれば自動的に人が来るわけではない。協力雇用主になった当初、廣瀬は地元の就労支援担当者にこう言われた。
「オレは悪いけど、廣瀬さんのこと、半分しか信用してないかんな。過去がひどすぎるよ。どこにいっても、あんたのことは悪い話しか聞かないんだよ」
また新しい試練だ。廣瀬は裏で暴力団とつながっている、あいつは女ヤクザだという風評。何かしようとすると必ず過去を云々されて“とおせんぼう”され、起業してからやってきたことは評価されない。あまりの悔しさに感情的になり、泣いて抗議したが相手にされなかった。結果はやはり、待てど暮らせど応募者ゼロ。
それでも廣瀬はあきらめず、誰かの知り合いが刑務所にいると聞けば手紙を書き、そこを出たら働かないかと呼びかけたりしていた。
出所後、社会にはじかれて挫折を経験
「だって私は本当にそういう人が欲しいと思ってる。私は自分が出所者だし、そういう友だちや知人がたくさんいるじゃない。いい会社だという評価を得たいがために形だけ登録している会社とは違うんだよ」
協力雇用主には数万社が登録しているものの、実際に受け入れ実績のある会社は1割に満たないのが現状だ。
「今度こそちゃんとやろうと意気込んで出所しても、社会全体がそういう人をはじく傾向があるじゃないですか。私もそれで挫折してきました。だからこそ受け入れたい。うちの従業員は過去のある人ばかりだから大丈夫だよ、隠し事なしのオープンでいいんだよ。そういう環境で、毎日おいしいご飯が出てくるとなったら、きっと違うんじゃないかなと思う。それに、私自身にもそういう人に囲まれていることで自分らしくいられる実感があった」
冷たくあしらわれても、協力雇用主としての活動が自分と会社の将来を照らす光になるという確信は揺らがなかった。