受け入れ開始
怒ったり笑ったり、くるくる表情を変えつつ喋る廣瀬を前に、僕とカンゴローは感慨深い気分になっていた。この人はついに、困っている人を助けることが自分を助けることにもなる、という境地に達したのだ。
「考え方の問題かもしれないけど、自分にフィットすることをしようとするとき、何かが逆転して、過去が生かされる感じがします。私は昔ヤンチャをしていた。捕まって刑務所に入った。獄中出産で我が子と数分しか一緒にいられなかった。みんな事実で、取り返しがつかない。曲がりなりにもそこから立ち上がっても、あんたは信用できないと言われる。だけど、過去が全部無駄で無意味かといえば、そんなことはないと思う。
協力雇用主になったら、いいも悪いも含めた経験を生かして、私にしかできない更生のお手伝いができるんじゃないかと思ったの。こっちは真剣なんだよ。くそー、なんとかならねえかなと悶々としてました」
いい意味であきらめの悪い廣瀬に耳寄りな話が舞い込んだのは2018年の春。地元の暴走族からヤクザになり覚せい剤で逮捕され、現在は薬物依存者のサポートに人生を捧げている先輩の遊佐学(ゆさ・まなぶ)から、刑務所や少年院などにいる受刑者のための就職雑誌を作った人がいると聞かされたのだ。
「学とは売人時代に、どっちがいいブツを扱っているとか競ったりしてたんですが、いまでは『オレはまじめに生きてるから』『私も更生保護とかやってるんだよ』みたいな関係になっています。彼の紹介なら間違いないとお会いしたのが『Chance!!』を創刊したばかりの、私の人生を決定的に変えてくれた三宅晶子さんだったんです」
マイナーな求人雑誌に可能性を感じ、求人掲載を申し出る
廣瀬には出所後、建設業との出合いや会社の分裂騒動など何度かの節目があるが、最重要人物は誰かと問われたら、この人以外にはいないという。『Chance!!』創刊号を見た廣瀬は衝撃を受け、初対面で意気投合。すぐに募集広告掲載を申し出た。
募集方法に飢えていたとはいえ、金を払って広告を出すのは冒険だ。創刊されたばかりで海のものとも山のものともつかない『Chance!!』には“「絶対にやり直す」という覚悟のある人と、それを応援する企業のための求人誌”というキャッチフレーズがついていた。
いまでこそ季刊誌として号を重ね、募集企業も増えて知名度も上がってきた同誌だが、創刊号は薄く、情報量も少なかった。少年院や刑務所にいて出所後の仕事を探したい受刑者に向けて、協力雇用主が人材募集広告を出す無料の雑誌で、発行部数はわずか150部。一般の目には触れないマイナー雑誌のどこに、廣瀬は可能性を感じたのだろう。
「発想もいいと思ったけど、三宅さん自身かな。商売人の匂いがしなかった。かといって、自己犠牲の精神で作っているわけではなく、ビジネスとして考えている。ニーズがあるのに、出所者が仕事を探せる媒体がない。だったら私が作ってみようと思うのは簡単でも、実際にやるのがいかに大変かは想像できました。でも、やったでしょ。この女はガッツがある、大したもんだと思って」