2019年、第25回参議院議員選挙広島県選挙区において、当時衆議院議員であった河井克行氏が、妻の河井案里氏を当選させるために行った大規模な買収行為。
案里氏と親しかった広島県議・渡辺典子氏は同事件に巻き込まれ、公選法違反(被買収)の罪に問われた。その公判が3月16日に広島地裁で始まる。
渡辺氏は、弁護団に「無罪請負人」として知られる弘中惇一郎弁護士を起用。克行氏から受け取った現金10万円は「氷代」であり、買収資金ではないとして無罪を主張する方針だという。
ここでは、ノンフィクションライター・常井健一氏の著書『おもちゃ 河井案里との対話』(文藝春秋)を一部抜粋して紹介する。かつて「ノリちゃん」「案里さん」と呼びあうほどの蜜月関係にあったふたり。案里氏の手ほどきをうけて政界進出を果たした渡辺氏が「絶縁」を決意した理由とは――。(全2回の2回目/最初から読む)
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女性たちの逆襲
2019年10月に事件が発覚して以降、彼女の周囲にいた数少ない女性たちの逆襲がはじまった。
口火を切ったのは、案里が手塩にかけて育ててきた後輩県議の渡辺典子だ。
「案里さんの発言を聞いて、この期に及んで公の場でウソをついているのかと驚きました」
渡辺がそう話した相手は「週刊文春」の記者である。2020年1月30日に発売された同誌には、《「河井案里は私の夫に罪を着せようとした」女性県議が覚悟の告発》という見出し、見開き2ページで、渡辺の単独インタビューが掲載された。
〈聴取がはじまって以降も、案里さん夫妻からは「迷惑かけてごめん」の一言もなく、疑問があふれてきました。これまでの恩もあるし、案里さんのことは尊敬もしていた。それだけに今の案里さんが許せないのです〉
事の発端は「案里氏の泣き言」
広島地検が案里と克行の事務所や自宅を家宅捜索した翌日(2020年1月16日)、広島市安佐北区にある渡辺の自宅にも検察官が捜査令状を持って現れた。そして案里と同様に、スマホとパソコンが押収された。2日後には渡辺が地検に呼ばれ、「被疑者」として事情聴取を受けている。
事の発端は案里の泣き言だった。
「ねえ、ノリちゃん。ウグイスをお願いできる人いない? 県連の嫌がらせか、見つからないの」
渡辺は県議選が終わった直後に案里からそう頼まれた。優秀なウグイス嬢には県連の息がかかっている。彼女らは口うるさい克行を嫌い、もともと「河井NG」だったが、案里は県連が妨害していると疑っていた。そこで渡辺は夫と相談し、自分の県議選で使ったウグイス嬢界のリーダー格の女性を案里に紹介した。名うてのウグイス嬢たちは案里陣営に加わり、過大な報酬を受け取ることになる。