2019年、第25回参議院議員選挙広島県選挙区において、当時衆議院議員であった河井克行氏が、妻の河井案里氏を当選させるために行った大規模な買収行為。
案里氏と親しかった広島県議・渡辺典子氏は同事件に巻き込まれ、公選法違反(被買収)の罪に問われた。その公判が3月16日に広島地裁で始まる。
渡辺氏は、弁護団に「無罪請負人」として知られる弘中惇一郎弁護士を起用。克行氏から受け取った現金10万円は「氷代」であり、買収資金ではないとして無罪を主張する方針だという。
ここでは、ノンフィクションライター・常井健一氏の著書『おもちゃ 河井案里との対話』(文藝春秋)を一部抜粋して紹介する。ミス近畿大学、元モデルという華やかな経歴を持つ渡辺氏は、いかにして案里氏と出会い、そして決別に至ったのか――。(全2回の1回目/続きを読む)
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「恋のから騒ぎ」というルート
平成のテレビ界を賑わせた「恋のから騒ぎ」という日本テレビ系列の人気番組があった。明石家さんまが「恋から嬢」と呼ばれる雛壇の素人女性やタレントのタマゴたちをからかいながら、恋愛話を面白おかしく引き出していく構成が20、30代の女性視聴者たちにバカ受けした。
「恋から」は、バラエティー番組の出演者が政界の人材供給源になる先駆けでもあった。例えば、一時期、克行の対抗馬だった塩村文夏は「恋から」の14期生である。短大卒という学歴だが、一定の知名度があり、外見も良く、人前で物怖じせず、何より「キャラ立ち」している。
名門高校を出て、有名大学に進み、大物教授に師事し、国会議員の事務所やお役所で雑巾がけをするのが政治家になる王道だったとすれば、案里はその典型であった。もっと言えば、有力者に取り入り、男社会と折り合いをつけ、上昇志向をむき出しにしながら政敵に立ち向かう様は古風でもある。一方、塩村のような政治家は軽く、薄く、無味無臭だが、妙な気負いがなく、万人受けもする。
渡辺氏の「華やかすぎる経歴」
実は渡辺にも「恋から」の出演歴がある。広島市出身、身長170センチ。近畿大学在学中に「ミス近大」になり、ミスキャンパスの関西大会で優勝、全国大会で準優勝。さんまからは「ミスコン荒らし」といじられた。その後はオスカープロモーションや大阪SOSモデルエージェンシーといった大手芸能事務所に属し、モデル業で生計を立てる。2009年には香港で活躍した5歳上のモデルと結婚し、大阪で双子を出産。13年に帰郷して安佐北区の県議補選で初当選した。