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 久保は河井夫妻の結婚披露宴の呼びかけ人にも名を連ねていた。その箱入り娘をスカウトした案里は、渡辺が当選すると県議会少数派の檜山派に引き入れた。そして公私を問わず「ノリちゃん」と呼び、まるで妹のように可愛がった。克行の後援会に属する安佐北区民らを紹介する一方、個人的な買い物や食事に付き合わせることもしばしば。

 渡辺が初当選して1年もたたない頃には、ふたりで「行政視察団」と称し、イタリアのローマ、フィレンツェ、ミラノを10日間でめぐる豪華な旅に繰り出したこともある。現地との事前調整は、外務省に顔が利く克行が喜んで引き受けた。

「選挙の戸別訪問は、一軒でも飛ばしたら文句言われるでしょ。だから、ここでもそうしましょ」

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 案里はそう言いながら、渡辺とミラノ中心部のブランド店をくまなく歩き、買い物を楽しんだ。

イタリア視察中の河井案里氏と渡辺典子氏(広島県議会への提出資料より)

蜜月関係の終わり

 そんな絵に描いたような蜜月関係も、2019年夏の参院選を機に終わろうとしていた。

 河井夫妻が渡辺を大事にするのは、敵だらけの地元対策に役立つだけでなく、広島全域で勢力拡大を試みるためだった。エディオンは県内一円に150店舗近くもある。それは全県選挙の足掛かりになる。実際、参院選では姉の桐里を使い、「会長令嬢」の渡辺と全店舗に挨拶回りをさせている。

 2016年の前回参院選では、いっそのこと渡辺を「自民党2人目」としてかの宮沢洋一にぶつけようしたこともあった。だが、渡辺は15年の県議選では定数3の安佐北区で4人中3位の最下位当選。参院選の直前にあった19年4月の県議選も3位だった。克行は渡辺の弱さを不満に思っていた。県議選後には、狭い車中でふたりきりになり、渡辺にネチネチと説教を食らわせたこともあった。

イタリア視察中の河井案里氏(左)と渡辺典子氏(右)(広島県議会への提出資料より)

克行氏の許しがたい行動

 一方、渡辺は、克行が県議選で取った行動に怒りを覚えていた。克行は渡辺の選挙区に彼女より5歳年上の女性新人、三宅典子を立てた。河井派にとって安佐北区で2人目となる「子飼い」を出し、渡辺と「女の戦い」を演じさせ、自分の勢力範囲を広げようとしたのだ。それは、数か月後に控える参院選で案里の勝利を確実にするための地ならしにもなる。