案里氏から「怒りの電話」が
渡辺のインタビュー記事が文春に出た直後、案里は私に電話をかけてきてこう話した。
「渡辺典子は県議選の時にうちの主人が一生懸命、地元を一緒に回ってあげたんだよ。自宅にガサが入ったからといって、それを私たち(夫婦)のせいだと思い込んでいる」
案里の声は怒りに震えていた。渡辺の夫の実名を出して、彼にも責任があると訴えてきた。
案里は結婚とともに広島に引っ越してきて、10年以上がたっても心を許せる友人ができなかった。そんな中、2013年の県議補選で案里が擁立した渡辺は数少ない相談相手となっていた。
だが、克行の元秘書は「案里も狸だからなあ」と言いながらこう打ち明ける。
「私が事務所を辞めたばかりの頃に、渡辺典子の選挙を手伝ったことがあるんですよ。そうしたら案里が渡辺の事務所に怒鳴り込んで邪魔してきました。『うちの秘書を勝手に手伝わせるな!』と」
周囲が呆れた、克行氏の図々しさ
克行は最初に渡辺を担いだ際、渡辺の父をエディオン本社まで訪ねたという。元秘書は、克行が支援項目と「値段」を食堂のお品書きのように書き出した紙を用意しているのを見たという。
渡辺は大経営者の父に内緒で出馬したが、後に父のつてで地域の名門企業を味方につけた。克行はそれらの幹部にも自分を会わせるよう渡辺に頼んできた。あまりの図々しさに周囲も呆れたが、渡辺は克行の選挙区内で活動する以上、克行をかばい、家族ぐるみで案里を応援した。
案里が勝てば、3年後の参院選は同じ枠組みで渡辺が「自民党2人目」として出馬する──。そんな噂も現地で聞いた。現に、2016年の参院選でも渡辺が克行に担がれる寸前だったという話はすでに書いた。渡辺はその構想を克行から直接聞かされたことはないと否定するが、19年7月21日夜に案里の当確が出た際、渡辺の後援者たちは案里の事務所で期待の声を上げた。
「次はノリちゃんの番だね!」
だが、渡辺は事件に巻き込まれ、大きな傷を負った。