こうした現状に疑問を抱いたAさんは、初公判が始まってからメディアによる取材をたびたび受けた。篠塚元被告の逮捕の知らせを受けたのは、愛娘を突然亡くし、ようやく一周忌をむかえた直後の昨年12月のこと。彼はAさんの娘の葬儀担当者だった。篠塚元被告はまず盗撮容疑で現行犯逮捕され、その際のスマートフォンの解析によって遺体の動画が発見されたという経緯がある。篠塚元被告のスマホにはAさんの娘だけでなく、数名の遺体に同様の行為を働く動画が保存されていた。つまり盗撮での逮捕がなければ、遺体へのわいせつ行為は発覚しなかったことだろう。
「娘の件は氷山の一角かもしれない」
当時、取材を受けるに至った気持ちについて、Aさんが改めて語る。
「ということは、娘の件は氷山の一角かもしれない。死後のわいせつ行為が法律で罰せられるようになってほしいですし、葬儀場での遺体の取り扱いや霊安室への出入りについてのルールが定められて欲しいという思いもありました。そうしなければ、同じことがきっと繰り返される。何か変わるきっかけになればという強い思いがありました」
ところが、ニュースが出た後はインターネットの上の書き込みや顔見知りからの連絡に、Aさんの心は波風を立てた。多かったのが“借金の申し込み”だったという。
「複数の人から連絡がありました。報道から、私が『裁判の関係者になった』ということは理解したらしいのですが、それだけで『篠塚元被告から賠償などの多額の金を得た』と誤解したようです」(Aさん)
実際のところ篠塚元被告は、Aさんをはじめとした関係者に対しては、謝罪文すら送っていない。金銭的な賠償は現時点では全くなされていない状態だ。
母であるAさんが取材を受ける理由
さらに、テレビ局の取材に応じた際の映像がニュースで流れると「見たよ~、しかしずいぶんとまあ太ったね笑」と、Aさんの容姿を嘲笑するような連絡が顔見知りから来たという。
「私は娘を亡くしてからずっと寝たきりでした。1年間ほとんど外出もできずに過ごし、精神科で処方された薬を服用していましたが、体重が増加するという副作用があります。これまでどう生きてきたかをよく知らない人から、そういうことを言われて……でも怒るのも面倒だから『そうだね』って返して。
それでも私が取材を受けるのは、現状を少しでも変えるきっかけになればと思っているからです。お金が欲しいとか可哀想がられたいとか有名になりたいとか、そんなわけではない。たとえ自分の姿を晒すことになっても一石を投じたい、ただそれだけなんです」(同前)