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「男人間、女人間という言葉がありますが、私は『人間女』でありたいと思います。人間であって、女である──そんな風に桐子という女性を演じたいと願いました」と、著書の中で『駅 STATION』での役柄について語る倍賞千恵子の演技には、今はもう存在しない女だけの劇団への記憶が、女性の連帯を信じる感覚として残っているように見える。

フランスのスタッフも「なんてエレガントなんだ」と感激

『PLA N75』撮影の中で倍賞千恵子は、早川千絵監督と意見を交わし、演出にも深く関わったことが監督から明かされている。

「お芝居は手の先から足の先まで完璧でした。フランスの編集スタッフもサウンドエンジニアも『なんてエレガントなんだ』と。まさに誰もが(彼女が演じる)ミチを好きになっていました。同時に人間的に素晴らしい方です。倍賞さんはスタッフの名前を、アシスタントの名前まで全部覚えていらっしゃるんですよ」と早川監督は語る。

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©AFLO

 のん、吉岡里帆、広瀬すず、岸井ゆきのという、今後の日本映画を支えるであろう若い女優たちは、日本アカデミー賞の赤絨毯を倍賞千恵子と並び歩くことになる。最優秀賞の行方など野暮なことだろう。日本の映画観客に、今さら日本アカデミー賞が倍賞千恵子の価値を左右すると考える者などほとんどいるまい。

 大衆文化とは何か、名もなき民衆とともに生きることはどういうことなのか、人間であることと女性であることはどのように一つの身体に重なるものなのか、次の世代の女優たちに伝えるために、『下町の太陽』はその日今一度、壇上に登る。