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メンツを気にしてポーズをとる警察

 ヤクザと対峙する専門の刑事はマル暴と呼ばれる。暴力団担当の通称で、暴力団犯罪が火急の社会問題だった昭和の時代は全国に捜査第四課が置かれており、その名残で今でも「四課」と呼ばれたりする。刑事たちは単純に「暴力」といったりする。北海道警察のように捜査四課が残っている場合でも、警視庁のように組織犯罪対策課になったエリアでも、取り締まりの主役が暴力団である事実は変わらない。どう呼んでも暴力団や警察には通じる。

 掌を握り、おでこに当てる仕草が、暴力団社会で「警察」を意味するのは、「おでこ→デコ助→刑事」だからだ。さらに暴力団事件を専門に扱うマル暴たちは、ひどくヤクザに似た空気をまとっている。何も知らない者からすれば、見た目は完全にヤクザだ。

 SNSでも、マル暴のヤクザっぽさはよく話題にされる。確実にウケる鉄板ネタといってもいい。YouTubeのような動画サイトを検索すれば、暴力団事務所に家宅捜索に入る警察官がヤクザ顔負けの迫力で怒鳴り散らしている映像がすぐ見つかるはずだ。ロックされたドアノブをガチャガチャと回し、扉をドンドン叩き、「開けんか! 大阪(府警)怖いんか!」と叫ぶ映像は、昔からテレビで放映されていた。山一抗争の頃、大阪の子供たちはそれを真似して遊んだらしい。

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 家宅捜索……通称ガサ入れは警察の格好の宣伝材料だ。大きなガサ入れとなり、警察が格好のパフォーマンスになると踏んだケースは、警察詰めの記者にあらかじめ知らされる。そのため、記者クラブのメディアは、ガサ入れとほぼ同時に現場に姿を見せる。マスコミ各社のカメラがセッティングされたのを見計らって、警察はヤクザ事務所をノックする。

 とはいえ、県警によっては暴力団側と癒着しているので、あらかじめヤクザ側に家宅捜索の日時が知らされている。某県警のように、ヤクザに抱き込まれているエリアでは、ほぼ完全にヤクザ側が警察の訪問を知っている。

「明日、ガサがあるから、今日は早めに帰らないと」

 知り合いの組長からこう言われたときはさすがにビビった。当時、私はまだウブだった。

 テレビのニュース番組などでは、捜査員が押収した証拠品の入った段ボール箱をうやうやしく抱えて出てくる映像が放映されるが、たいてい中には何も入っていない。マスコミを引き連れ大名行列をしてきたので、そうでもしないと格好がつかないらしい。

©AFLO

 前述したヤクザに対する威嚇や、必要以上に暴力的な警察の映像は、それがお茶の間に放映されると分かっているから、あえてやっているところもある。荒っぽいイメージの大阪府警にとどまらず、紳士的な応対の警視庁も、カメラの前で威圧されれば、対抗手段をとるしかない。警察官にもメンツがあるのだ。

 ただし、大阪府警のヤクザに対する「嫌キチ」ぶりは筋金入りで、図抜けている。

 ある山口組の法事の日、全国の直参組長が兵庫県内にある墓所に集結し、墓前に花を手向けて焼香した。すると大阪県警のマル暴がぞろぞろとやってきて、みんなの前で、ある直参組長を逮捕したのである。

 群衆の前で手錠をかけるのだから、あえてやっているとしか思えない。さすがに山口組側も抗議していた。すぐにその周辺をいかつい刑事たちが取り囲んだ。兵庫県警には事前に伝えられていなかった。

「ほんま大阪は、昔からああいうことするんや……」

 兵庫県警の刑事が、吐き捨てるようにいった。縄張りを蹂躙されたからかもしれない。