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 2019年10月10日、山口組の分裂抗争で山健組の組員2人が銃撃され死亡する事件が起きた。マスコミのカメラマンに扮装した弘道会のヒットマンによる犯行で、犯行前、実話誌のカメラマンと言葉を交わしていた。すぐ現場に向かったが、神戸は日が暮れていた。それでも今のデジカメなら深夜の撮影ができる。新神戸駅からタクシーを飛ばして、神戸市花隈にある山健組事務所に向かった。

 2人が殺されたのは事務所前の路上である。とはいえ、細かな場所は分からない。少し手前でタクシーを止めてもらった。するとすぐに周辺を警戒していた組員がやってきた。運転手がこちらを振り向き、困惑した顔をする。ごめん――。急ぎ料金を払った頃には、組員たちに囲まれていた。

「おたく……どちらさん?」

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「週刊誌の取材で来ました。今名刺を出します」

 名刺を渡そうとしたら、「ちょっと調べさせてもらう」とカバンに手を掛けられた。明らかに風格の異質な男性だったので、幹部だったと推測している。当然、カバンに調べられて困るものなど入っていない。おとなしく差し出した。

 私を取り囲むヤクザの後ろに制服を着た警察官の姿が見えた。ヤクザを制止する様子はなかった。

 ヤクザによる職務質問が終わったあと、その幹部は犯行現場を教えてくれた。朱みの残った黒っぽい血痕があった。合掌した後に撮影した。おそらく組長クラスだろうヤクザは、ぶっきらぼうな言い方だったが、不思議に嫌な印象はない。

「私らも、職務質問させてもらいますね」

 ヤクザたちが去っていくと、今度は制服警官がおそるおそる近づいてきた。

「私らも、職務質問させてもらいますね」

 ヤクザに順番を譲る警察官に、無性に腹が立った。

「あんた、ずっと、見てたんでしょ。一般人がヤクザに囲まれて荷物調べられてるのに、なんで何もいわないの!」

「彼らも仲間を殺されて、気が立ってるから……」

「なんだよそれ! 俺が暴力を振るわれたらどうするつもりだったんですか。黙って見てるなんておかしいじゃないですか!」

 抗議しているうちに激昂してきた。

 警察官は「職務質問させてもらうから」と繰り返すだけだ。文句を垂れながら、私のカバンを調べる様子をずっと動画撮影した。それが終わると警察官は、「私にも名刺をもらえますか?」と言った。こうして思い返すとばかばかしくて笑ってしまう。ドラマに出てくる警察官は、いつでも毅然とした態度でヤクザに接する。こんなにも弱腰の実像を一般人は知らない。実際、歌舞伎町などで銃撃事件が起きても、警察官はヤクザを怖がって、すぐには現場を封鎖しない。

 だから原則、抗争中に張り付き警戒をしている警察官は、我々にも接触しようとしない。あまりに無視されるので、福岡県の事務所近くに止まっていたバスをノックしたことがある。

「こんにちは!」

「……」

「俺、これから事務所に入っていこうとしています。警察から見たら不審者ですよね。職務質問はしないのですか?」

 機動隊らしき着衣の警察官は、車両後部にいる上司らしき人間とゴニョゴニョ話したあと、こちらに向かってさっさと出ていけと手を振った。