損害賠償を740万円に決めた理由
――今回、澁谷さんは精神的苦痛を受けたとして、制作会社などに対し計740万円の損害賠償を求めました。この額はどのように決めたのでしょうか。
澁谷 正直、損害賠償金を決めるのに一番時間を要しました。お金欲しさに裁判をやるわけではないですが、あまりにも安い金額にしてしまうと、AVそのものの価値が低いとみなされてしまうのでそれだけは避けたいなと。
まずは、該当動画に対して私が受け取ったギャラの28万円、そして私が当時所属していた事務所側の取り分であったと思われる28万円を足した56万円の10倍である560万円が適当かなと考えました。そこに弁護士費用だったり、その他裁判のためにかかる費用を上乗せして、740万円を損害賠償金に決めました。
Twitterでは、「賠償金安くないか?」という声もあったんですが、本当に前例がないので、今でもこの金額が適正だったのか悩むことはあります。ただ、この裁判はお金ではなく、再犯防止を求めてやっていますので、業界が少しでも変わるきっかけになればと思います。
「恥ずかしいから訴えを起こしたわけではない」
――訴えを起こしてから、制作会社側から何か声明はあったのでしょうか。
澁谷 特に何もありません。謝罪の一言はあるのかな、と期待していましたが今のところないです。もし向こうに非がないとしても、流出してしまったのは事実なので、謝罪がないのは残念だと思いました。
――SNSなどでは、「モザイクがないことがそんなに重要なのか」と今回の流出事件を軽視する声もありました。
澁谷 よく勘違いされることなんですが、私はモザイクなしの自分の性器の映像が流出して恥ずかしいから訴えを起こしたわけではないです。AV女優という仕事をしていたので、裸を売りにしていましたし、人から見られてなんぼの世界だと理解しています。ただ、先ほども言ったように今回の問題はそこではなく、違法動画に出演していると見なされてしまうということです。モザイクなしの動画は日本では違法です。
過去にモザイク処理のない動画に出演したとしてAV女優が逮捕されたことがありました。彼女たちは、事務所やメーカーから「これは海外向けのものだから違法じゃないから」と説明を受けたみたいです。モザイク処理のない動画だとギャラも通常のAV動画に比べて5倍くらい高いので、騙されて出演してしまうというケースもあるようです。
それにAV新法制定前は、AV撮影での性行為は、グレーゾーンだったんです。モザイク処理をすることで、性行為をカモフラージュするという側面もあったと思います。そういう意味でも無修正動画の流出は絶対に起きてはならないことだと思っています。(#2に続く)
写真=松本輝一/文藝春秋
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