親がすごいとなにもかもうまくいく「ブモ(親)チャンス」
このスプーン階級論は、貧富の格差、不公正な社会構造に対する韓国の若い世代の嘆きとしてよく報じられますし、たしかにそういう側面があります。そういう側面を全否定すべきだとは、私も思っていません。ただ、私は、これは「社会への不満というよりは、実は自分の親への不満を表したものではないのか」と見ています。自分自身のせい(能力不足)だとする意見は見たことがありません。
前にも、本やブログなどに同様の趣旨を書いたことがありますが、ネットコミュニティーなどで見られるスプーン階級論の引用は、メディアの記事が指摘する「いまの自分が努力しても成功できないもどかしさ」ではなく、「大金持ちの子で生まれたら、なんの問題もないのに」とするものでした。
そして、時を同じくして、「ブモ(親)チャンス」という言葉もまた、よく見られるようになりました。これは、親がすごいとなにもかもうまくいくという意味で、どことなく、親が偉いと子も偉いという朝鮮時代の儒教思想に似ている気もします。それに、もともとスプーンが登場している時点で、階級論は明らかに「親」関連です。「銀のスプーンを口に咥(くわ)えて生まれた」というヨーロッパの慣用表現から来たネーミングだからです。
昔、ヨーロッパの貴族の赤ちゃんには、乳母でも、直接自分の乳を飲ませることはできませんでした。身分が違うからです。だから、銀のスプーンにいったん乳を出して、それを赤ちゃんに飲ませました(乳母はともかく、赤ちゃんも大変ですね)。そう、実はスプーン階級論は、階級論ではありません。「身分」論です。血統で世襲される、身分制度のように。
韓国民の85.9%は自分のことを弱者だと思っている
2022年12月1日、「中央日報」が韓国職業能力研究院の「2022韓国人の職業意識および職業倫理」という報告書を分析した結果、韓国民の85.9%は自分自身のことを弱者(韓国では「乙(ウル)」と言います)だと思っていることが分かりました。若いほど、学歴が低いほど、この比率は上がる、とも。ちなみに韓国では社会的な強者を「甲(カブ)」とし、強者が弱者から搾取する問題を「甲乙(カブル)問題」と言います。契約書を書くとき、弱者は損を甘受するしかないという意味で、契約書の甲乙から来た表現です。