2010年前後を境に日本の人口は減少に転じた。20年現在で1億2600万人。働き手の主体となる15歳から64歳の生産年齢人口は7400万人。国立社会保障・人口問題研究所の推計によれば、10年後の2030年に人口は1億1600万人、生産年齢人口は6700万人になるという。
世の中の中心を占める働き手の人口がどんどん減っていくことを前提とすれば、住宅需要は次第に萎んでいくと考えられる。ところが日本では新築の住宅着工戸数はここ10年間80万戸台から90万戸台を保ち続けている。そしてそのうち4割近くを貸家が占めている。貸家とはアパートや賃貸マンション、戸建て賃貸を指すが、特に活発なのがアパート建設だ。
相続対策で貸家を建てたい人々
アパートと言えば、若い学生や結婚前の独身者が住むというのが常識だったが、最近では高齢者の利用も増えつつある。しかし数が増えている高齢者だが、高齢になると定収入がなく、賃料の支払いに不安が残る。また高齢単身者だと健康を害して孤独死するリスクもあり、オーナー側は貸したがらない。
需要が明らかに減少していくのに貸家建設が進むのは、それだけ貸家を建てたい人がいるからだ。その理由は相続対策である。
現金で持っていると相続時には金額そのままが課税対象となる。しかし、これを不動産に換えておけば、土地は路線価評価額、建物は固定資産税評価額で評価されるので、現金のままで課税されるよりも評価額はかなり低くなる。富裕層にとっては都合の良い対策だ。
また貸家はテナントが入れば、賃料収入が得られる。子供や孫に相続すれば、彼らにとっての定収入になる。テナント集めについても業者にお任せすれば、彼らが集め、日々のクレームなどの処理をしてくれる。建物のメンテナンスも請け負ってくれる。賃貸管理に精通していなくて大丈夫だ。さらに業者によっては、賃料保証をしてくれるので、たとえマーケットが悪化しても、収入は保証される。
賃貸用の空き家が約半分を占める
そんなこんなで続々建設される貸家だが、本当に大丈夫なのだろうか。現在日本国内では848万戸(2018年)の空き家がある。メディアなどで取り上げるのは、朽ち果てて倒壊しそうな家、ゴミ屋敷となって周囲に悪影響を与えている家などだが、実際に848万戸のうち賃貸用の空き家が431万戸と約半分を占めている。
それでも貸家建設は旺盛だ。次々と新製品が出てくるようなマーケットだから、借りる側も目が肥えてくる。昭和平成であればあたりまえだった3点式ユニットバス(バス、トイレ、洗面台が一体のもの)は最近では見向きもされない。面積30㎡以上、バス、トイレ別は最低条件といってよい。
これだけ新規物件が登場すれば、既存の物件、築年が20年を超えると競争力が衰える。建設当初は最新鋭の貸家でも、立地などによほど恵まれていないとマーケットの中で埋没し、大量の空室を抱える事態になる。
それでも貸家建設が衰えないのは相続に対する恐怖心だ。とにかく一族に財産を承継しようと、なるべく税金は払わず、有利な条件で引き継ぎたい。この思いが貸家マーケットを歪んだものにしている。