「5000勝も絶対達成したくなりました」
数字をあげて目標を口にすることはほとんどない武だが、2018年に通算4000勝を達成したときには、盛大なセレモニーで祝福されたのを受け、《4000勝の反響の大きさを楽しんだ途端、5000勝も絶対達成したくなりました。こんなに祝福してくれるんだ、という驚きと喜び。もう一回味わいたいという欲が出ました》と珍しく口にした(『Number』2020年4月16日号)。
その一方で、《この数字はまだ通過点。四千よりも四千一勝、二勝と更に記録を伸ばす方が嬉しい。依頼がある限りは乗り続けて、さらに勝ちを積み重ねていければと思っています》と語るあたりが(『文藝春秋』2019年1月号)、やはり武豊なのだろう。
そんな武が、自身の将来像として以前から明言しているのが「還暦まで騎手を続ける」ことだ。ただ、前出の島田明宏によれば、それは60歳になったら引退するという意味ではなく、《60歳になっても馬上にいて、そのときもなお「想像もできなかった自分」になろうとしていたい、という意味だ》という(島田明宏『誰も書かなかった武豊 決断』徳間書店、2014年)。
弟・幸四郎氏が驚いた「特殊能力」
かつて、あるレースで第3コーナーを回ったとき、芝の上をヘビが横切るので「踏んでしまう」と思った武は、レースのあと「ヘビ、やばかったねえ」とほかの騎手に言ったところ、みんな「えっ?」と誰も気づいていなかったという。《勝負勘、展開の読みなど、技術だけじゃないのが騎手。ヘビに気づける特殊能力を持つアニキは「まだ一番上手い」と思います》と語るのは、武の9歳下の弟で、騎手として活躍後、現在は調教師として兄を支える武幸四郎だ(『GOETHE』2021年2月号)。
そんな特殊能力があれば、還暦も現役のまま余裕で迎えそうだ。それまであと6年。いまのペースなら5000勝もけっして夢ではないだろう。もっとも、たとえそこに到達しても武にとってはなお通過点にすぎず、そのときにはまた新たな目標を目指しているのかもしれないが。