クマがトドメを刺さなかったから生き残れた
――先に手を出さなければよかった?
「あぁ、手を出さなければどうなっていたかわからないですね。ただ……その余裕はなかったです。もう少し距離があれば、例えば5、6メートル離れていたら、私も別の判断ができたかもしれないですが、本当にお互い手が届く距離で出会い頭だったもんだから、反射的に手が出ちゃいましたね」
それにしても、高枝鎌(長い柄のついた鎌)で攻撃してきた真野を「脅威」とみなし、これを排除するべく攻撃を加えていたクマはなぜ途中で立ち去ったのだろうか。
「キノコ仲間からは、犬が戻って来るのに気付いたからクマが逃げたんだろうと言われました。本当の理由はわかりませんが、いずれにしろクマがトドメを刺さなかったから生き残れたのは確かです」
8年前の事故は、何よりも重い「教訓」に
あれから8年が経ち、近年ではさらにクマの生息地が人間の生活圏に近づいていることが指摘されている。
「私としては、クマを害獣として過度に駆除を要求すること、反対に動物愛護の立場から過度に保護を訴えること、いずれにも反対です。クマと人間の領域をきちんとゾーニング(住み分け)し、そのゾーニングを維持・管理するために一定程度の駆除を認めるという方向がいいと思ってます。
一方で、これは私自身の反省もふまえた上でですが、近年、盛り上がりを見せているバックカントリースキーやアドベンチャートラベルなど自然を舞台にした観光事業が、安全面での対策があまりに未熟なまま進められていることを危惧しています。ヒグマに限らず、相手が自然である以上、人間の思い込みや予測を越える危険が付きものであることを理解した上で、十分すぎるほど十分な対策が為されることを切に望んでいます」
支笏湖のパークボランティアも務める真野にとって、自身の身に起きた8年前の事故は、何よりも重い「教訓」となっている。
(文中敬称略)
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