朝日新聞ドバイ支局長としてガーシー一味に接し、1000時間に及ぶ密着取材を続けた伊藤喜之氏の新刊『悪党 潜入300日 ドバイ・ガーシー一味』を一部抜粋してお届け。ガーシー氏(本名・東谷義和)の日頃の言動や、マンガの趣味から見えた「彼の価値観」とは……?(全2回の2回目/前編を読む)
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ガーシーの意外な素顔
ある日、いつものように東谷の自宅アパートメントに取材で訪れたときのことだ。
東谷はテレビでアニメを観ていた。冨樫義博の人気漫画『HUNTER × HUNTER』のアニメ版で、序盤のハンター試験編の回だった。ドバイにいるわけだが、オンラインの動画サービスを使って視聴しているようだった。
ちょうど私は取材で質問したいことがあり、「ちょっと聞きたいんですけど」と声をかけると、東谷は露骨に不快そうな表情を浮かべた。「ねー伊藤さん。ダメですよ。後にしてください」。そばにいた公設第一秘書の墨谷は「記者魂ですね」と私をからかってきたが、後で聞くと、「漫画とかアニメに熱中している時の東さんに声をかけるのはNG」だと教えられた。完全に漫画の世界に没入してしまうため、誰かに邪魔されると不機嫌になるのだという。
東谷にとって漫画やアニメを鑑賞する時間はそれほど譲れないものらしい。
子どものころの夢は「漫画家になること」だったという東谷。今でも職業の中で最も漫画家をリスペクトし続けているという。
雑談していても、漫画の話題はしょっちゅう出てくる。
ある時はシーザーズパレスのカフェで昼食をとりながら、同じく漫画好きであるFC2創業者の高橋と東谷、そして秘書の墨谷が「連載が途中で中断した漫画」について長く話し込んでいるのに出くわしたことがある。
休載常連の『HUNTER×HUNTER』から始まり、『ベルセルク』『BASTARD!! —暗黒の破壊神—』『テラフォーマーズ』『コータローまかりとおる!』……。次々に漫画タイトルが上がり、「あーそれもあったなあ」「あれはほんと完結してほしい」「冨樫はもう腹が立ってくる」などと盛り上がっている。
少し驚いたのは、東谷がマイナーと思えるような漫画でも、登場キャラクターの名前や細かなセリフを克明に覚えていることだ。以前、インタビューで持っている数枚のクレジットカードの16桁をすべて覚えていると記憶力の良さを自負していたが、こんなところにも垣間見えた。