麦わらの一味ならぬ、「ガーシー一味」。東谷、FC2創業者の高橋、暗号資産ビジネスの久積、元バンドマンの墨谷、そして陰の仕掛け人である秋田……。皆がそれぞれに後ろ暗い過去を持つが、東谷はそこにむしろ任侠組織の絆のようなものを感じ取っている。
ある時はインスタグラムにこんな投稿をしていた。
「先日共通の知人を通じて、初めてGMOの熊谷さんと話しました。お互いの認識のズレや誤解を直接話したいと言われ、2人で話をさせてもらい、目指すべき道が同じであることがわかりました! 直接連絡してこられる男気に脱帽です! またこれでガーシー海賊団の船に新たな仲間が加わったわー どんどん味方を増やして、最高の海賊団にしたいと思いますー笑笑」
GMO熊谷とは東証プライム上場のGMOインターネット会長の熊谷正寿のことだ。東谷は暴露対象とすると予告していたが、熊谷は東谷と面会。誤解が解けて和解に至ったことを報告したわけだが、ここで海賊団と書くのは『ワンピース』リスペクト以外の何物でもない。さらに一時は敵対していても、友好的に近づいてきた者には、むしろ仲間として受け入れる姿勢を示す。
嘘のタレコミで東谷を陥れようとしたマッサージチェーン「りらくる」創業者の竹之内教博とはしばらく敵対したが、竹之内がその後、謝罪すると、一転して東谷は「これからは応援する」「もう変なこと言わん」と態度を変えた。
ガーシーと切っても切れない「中国古典」
『ワンピース』と同じ文脈でもう一つ触れておきたい物語がある。
水滸伝だ。さまざまな事情で世間からはじき出された108人の好漢が梁山泊と呼ばれる自然要塞に集結し、盗賊団を組む。悪徳官吏たちを倒し、国を救うことをめざす明の時代に書かれた中国を代表する伝奇小説だ。東谷は歴史漫画の巨匠横山光輝の『水滸伝』に影響され、たびたび言及している。
ある日、ドバイを散歩しながらのインスタ配信で東谷はこう語っていた。
「水滸伝というね、俺の大好きな中国の話があんねんけど、梁山泊という山に山賊が住み着いてて、いろんな理由で国を追われた、国会議員みたいな人とか、めちゃめちゃ強い武道家とか、意見が合わなくて役職を剥奪された元将軍とかが集まって、巨大な国という悪を滅ぼす。俺の周りにもクセのある人たちが集まってきている。そういう人たちが集まって、今の日本を変えれるんじゃないかという気がしていて、俺は今のこの空間がすごい心地いい。そんな無法者が集まっている感じが水滸伝っぽい。108(人)の悪者が集まって巨悪を倒す。まさに今の俺やなと」(2022年8月25日のインスタ配信)
参院選後のこの時期はドバイメンバーだけでなく、音楽事務所エイベックス会長の松浦勝人、実業家でユーチューバーの青汁王子こと三崎優太、自伝本『死なばもろとも』を編集した幻冬舎編集者の箕輪厚介らが相次いでドバイを訪れて東谷と会った直後だった。
ドバイだけでなく日本にも仲間や同志を増やし、日本の中枢や既得権益に喧嘩を売っていく――。冷めた人なら嘲笑しそうな、まさに漫画的野心だが、東谷はなかば本気でそう夢想しているように私には見えた。