先日、Netflixで『きのう何食べた?』を鑑賞しました。このほのぼのとしたホームドラマを観ながら、現役美容師として気になったことがありました。

 それは、都内の美容室に勤めるケンジ(内野聖陽)の「美容室のバックヤード」。店長と一緒にお昼ご飯を食べているシーンで、チラッと出てくる“同棲するシロさん(西島秀俊)とのやりとりをボヤくケンジと、聞いている店長”。

 ドラマのワンシーンとして当たり前に映されるこの構図に、違和感を覚えました。同業の美容師としては、すごく不自然に見えるのです。リアルな美容室の現場には、このシチュエーションはありえません。

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 例えばどの業界でも、ドラマの題材になると「本当はそうじゃないんだよな」といった状況は、あると思います。

 僕自身、映画やドラマが好きなので、これが物語の進行上、必要なシチュエーションであることは知っています。そこに過剰なリアリティは要らないことも理解しているのですが、やっぱり気になってしまう。

 ですので、今回は、一般的なイメージとは違う「実際はこうだよ」という解説をしてみようかと思います。

Beautiful Life 〜ふたりでいた日々〜』で主演した木村拓哉 ©文藝春秋

(1)美容室のバックヤードが広すぎる

 まず気になるのは、バックヤードが広すぎることです。そのシーンのバックヤードは、ガラス張りのような角部屋に、お洒落なソファがテーブルを挟んでいます。後ろには雑多に物が積まれていたり、ウィッグ(頭のマネキンのこと)が並んでいるところから「美容室の控え室」の雰囲気を演出しています。ですが、詰まるところ、都市部の美容室は、こんなバックヤードはありません。

ケンジの勤務先のバックヤードの図。奥は窓になっている。

 都市部の一般的な美容室は、「美容室の空間(客間)」を多く取るために、敷地を出来るだけ「表」にします。理由は、テナントが狭い上に家賃が高額だからです。様々な接客業に共通するところですが、お金を生み出せる「表」のスペースを広くして、もう1人お客様が滞在できる椅子と鏡面を用意した方が、売上を多く上げることができます。「裏」にあたる“バックヤード”を広く取るほど、支払う家賃に対しての坪単価は下がってしまうのです。