1ページ目から読む
3/3ページ目

そして迎えた運命の打席――


 自ら「もっとプレッシャーをかけてください」と語った男に巡ってきた、もっともプレッシャーのかかる絶好の場面だ。このとき、村上の脳裏には「バントもあるかな?」とよぎったという。しかし、栗山監督の信念はまったく揺らがなかった。初球、ど真ん中の151キロのストレートを強振する。ファウルとなったものの、積極性は戻ってきた。2球目のスライダーは悠然と見送って、1ボール1ストライクとなった。

 そして――。3球目の高めに投じられたストレートを見事に弾き返す。左中間に伸びた弾道はフェンスを直撃し、塁上の2人の走者が一気に生還する。見事なサヨナラ2ベースヒットだ。自らにプレッシャーを与え、逆境を力に変えてきた男の真骨頂だった。

©時事通信社

 最後にハッピーエンドを迎えられるのならば、途中に降りかかる困難や試練は、物語のスパイスとなる。結末をどこに置くかで、その過程の意味合いも大きく変わってくる。もしも、準決勝で侍ジャパンが敗退していれば、村上も、そして栗山監督もバッシングの嵐に見舞われたことだろう。

ADVERTISEMENT

 しかし、物語はまだ続くことになった。アメリカとの頂上決戦が、侍ジャパンに、そして日本のファンにもたらされることになった。物語はまだ終わらない。試練に耐え抜く者だけが、勝つ喜びを知っている。村上宗隆の逆襲が、いよいよ始まるのだ――。
 

記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。次のページでぜひご覧ください。