「これを断ったら役者がすたる」
そんな鈴木だが、近年のインタビューでは、《役作りって、本当は見えちゃいけないと思うんですけどね、見えちゃってるんですよね僕の場合(笑)。恥ずかしいことです》と自嘲めかして語ってもいる(『キネマ旬報』2021年9月上旬号)。これは、映画『孤狼の血 LEVEL2』(2021年)で残虐極まりないヤクザ・上林を演じたときの発言だ。ただ、本人によれば、同作出演にあたり準備したことといえば、尖った耳をあえて強調させるため、モミアゲを剃った奇抜な髪型にすることぐらいだったという。
もっとも、監督の白石和彌は、鈴木が撮影を前に《作中に出てこない、前作[引用者注:2018年公開の映画『孤狼の血』]で殺された親分と上林の関係性を考察し》、《親分と出会ってから今に至るまでの極めて細かい設定を、彼なりに作り上げて》「こうですか」と直接問い合わせてきたので驚いたと明かしている(『週刊ポスト』2021年10月1日号)。
『孤狼の血 LEVEL2』の出演依頼を受けたのは、ちょうどいい人を演じることが続き、そのイメージを裏切りたいと思っていたタイミングだっただけに、「これを断ったら役者がすたる」との思いで引き受けたという(『キネマ旬報』前掲号)。
またしても難しい役どころに挑戦
今年2月に公開された主演映画『エゴイスト』では、ゲイであることを隠しながら生きてきたファッション誌の編集者という、またしても難しい役どころに挑戦した。原作はエッセイスト・高山真の自伝的小説だが、映画化の話が動き出した矢先、2020年に高山が亡くなり、演じる鈴木は《彼の生きた証にならざるを得ない大切な作品なので、より大きな責任を持って演じなくてはならない》と感じながら、役づくりにのぞんだという(「美ST ONLINE」2023年2月10日配信)。
演じるにあたっては、高山がどういう思いで毎日を生きてきたかをずっと考えていたという。その一方で、自分の想像だけで演じてしまうと、ゲイに対する偏見やステレオタイプを助長する恐れがあるため、LGBTQ+監修をつけ、密に話し合いながら撮影を進めた(『SPA!』2023年2月14日号)。その意味でも新たな挑戦であった。
本作の軸となるのは、鈴木演じる主人公・浩輔と宮沢氷魚演じる青年・龍太とのラブストーリーとあって、鈴木としてはクィアムービーであることは絶対におろそかにしたくはなかったという(『キネマ旬報』2023年2月上旬号)。ただ、途中からは、浩輔と龍太の母親との関係にも焦点が当てられ、恋愛に限らない普遍的な愛の物語ともとれる展開を見せる。