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 世界一が懸かった極限下でも、大谷は中村を気遣えるほど自らの精神面を制御できていたようだ。

「真ん中に投げても打たれない自信がある」

 捕手の構えは、投手によって好みが分かれる。外角球を投げ込む際はミットだけではなく、捕手に体ごと外角に寄ってほしいという投手もいる。中村氏は中日時代に受けた山本昌投手がその典型だったという。

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 逆にどんな球種でも真ん中でいいという投手は今中慎二、岩瀬仁紀らだったという。

真横に曲がるスライダーでトラウトから空振り三振を奪う

「真ん中に構えていても変化球はそこから散らばっていった」

 たとえ好みに差異はあっても、好投手の条件は「とにかくストライクを投げられること。ストライクゾーンに投げるために強い球を磨いている」と中村氏は語る。その上で「特に真ん中は(打者に打たれる)不安が最も大きい。ボールが(打者の力量に)まさっていないと投げたくても投げられない。大谷君には甘めに真ん中に投げても、打たせない自信があるんだと思う」とみる。

 最速164キロを計測した直球は、メジャーを代表する強打者マイク・トラウト(エンゼルス)がある程度、予測しながら2度もバットにかすりもしなかった。今や米国では「スイーパー」と呼ばれ、スライダーとは区別される真横に曲がるスライダーでトラウトから空振り三振を奪うことで日本の優勝を決めた。

優勝の瞬間の大谷翔平 ©時事通信社

 捕手はミットをコーナーぎりぎりに構える必要などない。大谷の「甘めでいいんで……」とのシンプルな要求には自身の持ち球、一つ一つへの絶対的な自負がにじみ出ていた。

スプリットなしの2球種だけで米国圧倒

 大谷はこの日、直球に加え、スライダー、スプリットの3球種で組み立てることを中村に伝えていた。しかし、終わってみると、トラウトを含む3人の打者と対戦した計15球では直球とスライダーしか使わなかった。そもそもWBCではスプリットを使う機会が少なかった。大会後にマイナー相手に調整登板した際、スプリットを多投して調整に努めたところにもWBCではスライダーが主武器だった事実が表れていた。