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「横の変化は初見でも捕球は対応しやすい。ただ、スプリットのような縦の変化球は捕り損ねる可能性が高まるため、嫌なもの。大谷君は最初からスプリットなしでも、あのクラスの打者たちを抑えるつもりだったのではないか」(中村氏)

 大谷は先頭打者に四球を与えた後、ムーキー・ベッツ(ドジャース)を二ゴロ併殺打とし、ピンチの芽を摘んでいる。球種は外角、やや低めの直球だった。2018年にメジャーのMVPに輝いた好打者に「ゲッツーを狙って」思惑通りに仕留めた。

 最後の打者としてトラウトと対戦する――。大谷は登板前に思い描いた場面へと自力で持ち込んだ。

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大谷とトラウト ©時事通信社

投手の究極の領域に到達した大谷

 生前、ヤクルト監督などを務めた野村克也氏はチームのミーティングで「内野ゴロにするにはどこに投げるんや?」と尋ねたことがあったという。対右打者なら「外のスライダーで引っかけさせる」や「内角球で詰まらせる」との返答を即座に否定し、こう説いた。

「真ん中低めの直球をいい当たりにさせると、内野ゴロになる」

 大リーグのレギュラーシーズン開幕前、まだ3月である。あの夜、大谷はブルペンとベンチを往復した打者出場と並行しながら、投手の究極の領域に早くも到達していたのではないか。