観ている誰もが感情移入し、胸躍った侍ジャパンの熱き戦い。2006年の第1回WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)の優勝メンバーであり、野球評論家の多村仁志氏は苦笑しながら次のように告白した。
「僕は決勝戦の解説(J SPORTS中継)をしていたんですけど、最後、大谷翔平選手がトラウト選手から三振を奪ったとき、放送中にもかかわらず『よっしゃ!』って言ってしまったんですよ。あと前日のメキシコ戦でサヨナラ勝ちした後は、感極まって涙してしまったり……。いやもう、それだけ気持ちが入ってしまう素晴らしいWBCでした」
きっと多村氏と同じリアクションをとってしまった人も多かったことだろう。それほど人を引き込むパワーの強かった今大会の侍ジャパン。とくに決勝戦は、今後長く語り継がれるだろう名勝負だった。
決勝戦でも大きなポイントになった村上の覚醒
「先発の今永昇太投手は、初回を打者4人に対し9球を投げ、ボールのカウントになったのはひとつだけ。球威もあってストライクゾーンで勝負する素晴らしい立ち上がりでした。2回に好調のターナー選手に一発を食らいましたが、その後表情を見ても落ち着いていましたし、自信をもって投げていました。先発としての務めをしっかりとこなしてくれましたね」
その裏の回で、先頭バッターの村上宗隆が初球を叩き本塁打を放つと同点に追いついた。見どころの多かった決勝戦だが、多村氏はここが勝利のポイントだったという。
「点を取られたすぐ後にホームランで同点にした瞬間、チームは『今日はいける!』と感じたはずです。その後、ヒットやフォアボールでつなぐと、満塁のチャンスでヌートバー選手の内野ゴロで追加点。この回を同点で終わらせずリードできたことが、心理的にも大きかったと思いますね」
その後、岡本和真の本塁打で追加点。8回にダルビッシュ有がソロアーチを浴び3対2と1点差に詰め寄られたが、最後はまさかのクローザー・大谷で逃げ切り、3大会ぶりの王座奪還を成し遂げた。