「18歳の春、母が義父を殺して自死した。ひとり残された僕は16年後、事件の謎を解く旅に出た」

 著者の前田勝氏が18歳の時に、母親が無理心中事件を起こした。2018年、前田氏はドキュメンタリー番組「ザ・ノンフィクション」(フジテレビ系)に出演し、「なぜ母は無理心中事件を起こしたのか?」という謎を解くため、母の生涯を辿る旅に出た。番組は大きな反響を呼び、同番組の放送時点での年間最高視聴率を更新した。

 ここでは、その密着取材の過程で明らかになった内容を詳細に記した前田氏の著書『遠い家族~母はなぜ無理始心中を図ったのか~』(新潮社)より一部を抜粋。密着取材が始まった当初のエピソードを紹介する。(全2回の2回目/1回目から続く) 

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写真はイメージです ©iStock.com

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16年ぶりに遺品の携帯電話に電源を入れて手掛かりを探す

 密着取材が始まり、僕が住んでいる部屋にもカメラが入った。事件当時のことや、母との思い出の品について聞かれた。母の物はほとんど捨てていたが、形見として持っていた携帯電話と、財布に入っていたお守りを見せた。

 母の携帯電話から、なにか手がかりが見つかるかもしれなかったが、充電器もなく、15年以上電源を入れていなかったため、起動することができなかった。取材スタッフが、知り合いに頼んだら直せるかもしれないということで、携帯電話を預けた。

 韓国と、台湾にも取材に行く可能性があるため、パスポートの更新をしに台湾の出先機関に行った。もう何年も台湾語を話しておらず、間違いがあったらいけないと思い、日本語で更新のやりとりをした。

 すると、受付の男性が僕のパスポートを見るなり、兵役に行っていないことに気付き、隣にいた受付の男性と、「男のくせに兵役にも行かないで、愛国心がないのか」「36歳の除役年齢まで日本にいて、兵役から逃れるつもりなんだろ」と台湾語で嫌味を言っていた。僕が台湾語をわからないと思っているのだろう。

 僕だって兵役に行ってないことに罪悪感はあるが、行かない選択肢もあるし、人の家の事情も知らずに、どうしてそんな嫌味を言えるのかと思った。同じ国の人からの心ない言葉に、思いのほかショックを受けた。

 年が明けてしばらく経つと、電源が入るようになって携帯電話が戻ってきた。実は母の死後、一度だけ電源を入れたことがあった。最後にどんなメールがあったのか、恐る恐る見たが、事件に関することを含めて、とくに気になるようなメールはなかった。