皆様はもう鈴木忠平さんの新刊『アンビシャス』はお読みでしょうか。ファイターズの新本拠地エスコンフィールドHOKKAIDOの誕生について書かれた本です。

 と簡単に言ってしまいましたが。確かに表紙は新球場の絵で副題は「北海道にボールパークを創った男たち」、本を開くと建設定点観測の写真もありますし、エピローグは球団職員の荷物が札幌ドームから新球場へと運ばれている昨年末の冬の日なのですが、本文の中にエスコンフィールドHOKKAIDOは実は一切出てきません。エピローグ前の最終章は2018年3月26日、日本ハム本社の臨時取締役会で建設地決定の結論が出された1日の様子をじっくりみっちり描いて終わります。

エスコンフィールドHOKKAIDO ©時事通信社

ボールパーク計画が生まれたのがまさかこんな前だったなんて

 この「ボールパークを創った」は「建設した」ではないんですね。計画が立案され、球団の意志が固まり、建設地が決まる。そこまでの過程を9章使ってとことん丁寧に書き込んでいるんです。ボールパーク計画だけでいうなら7年半の期間、しかし球団や北広島市役所や札幌市役所や日刊スポーツの、関わった人々それぞれの忘れられない若き日の記憶も折節に挿入されて、何十年もの長きにわたる野球についての物語、群像劇になっています。

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 そうなんです、7年半。第九章が2018年3月の、この本の第一章は2010年の秋なんです。最初の最初にボールパーク計画が生まれたのがまさかこんな前だったなんて、読むまで想像すらしていませんでした。

 というのは何も私だけじゃなかったですよね。計画が最初に報じられた2016年5月の、自分およびフォローしてる方々のツイートを検索してみたら「ハッタリ」「観測気球」などの声があがっておりました。球団が札幌ドームとの契約内容を見直したがっているのは周知の事実で、その意味では驚くようなニュースじゃない。でも新球場を作るだなんて、そこまで言い出したらかえってあとあとまずいんじゃないの……そう、まさしくこの本に書かれていた通り《夫婦喧嘩の際に飛び交う単なるブラフのようにとらえていた》声が目立ったのです。100%のハッタリではあるまい新球場を本当に作りたいんだろうと見ていた人も、札幌ドームを完全に出てしまうとまでは考えず、2つの球場を使い分けるつもりなのだろうかと想像していたり。

 かく申す私自身はというと、最初の反応は《コンサも将来的に専用スタジアムをって言い出してるし、札幌ドームは「うちがいないとあんたら試合できないでしょうが」っていう態度のままでいると危ないのでは。》でした。ハッタリとまでは断じないものの、「このままなら出て行くかも」だと受け取った訳ですね。それが1日経つと《天然芝の自前球場いいなあとも思うし、何だかだ文句言いつつやっぱり札幌ドームに愛着もあるし。》になりました。各紙の記事を見るうちに、どうやら本気なのではと思い始めたらしい。自分のツイートに「らしい」もないもんだという話ですが、なにぶん7年前のことで、しかも私ときたら野球大喜利のボケ投稿ツイートばっかりなんです。えーい役に立たない奴(だから自分だ)。

 翌6月には北広島市が新球場誘致を表明しますが、この時には、少なくとも私のTLでは誘致それ自体への反応はほぼなく、(そうかやっぱり本気で新球場作る気なのか)(だけどそんなのうまくいく訳あるかい)というような、あくまでも球団へ向けた視線がちらほら、という空気でありました。そもそも私自身が全くこの件に触れていません。つまり明らかに歓迎してない。さりとて「えー!? 何それ!」と叫ぶのでもない。反応しないという形での反応、実に微妙だなあと7年経って思う訳ですが、それにしてもやっぱりひとことくらい最初の印象を書き留めておいてくれてもよかったのに(だから自分だってば)。