山本 例えば、「ACHAプロジェクト」で振袖撮影をするとき、当日はやっぱりみんな元気なんです。でもその笑顔の裏には普段、死にたいと思っている気持ちが隠れていたりして。
私はそれまで撮影日の笑顔しか見られていなかったけど、もしかしたらそういう部分に気づけていなかったのかもしれない、と考えるようになって。もちろん、撮影自体はいい時間なんですけど、本当に。
虐待の後遺症に苦しむ人がいる現状を知ってほしい
――本当はずっとつらくて死にたいと思っている人でも、振袖撮影のような晴れの日に会うとそんな風には見えない、ということですね。やはり、普段関わるとみんな何か苦痛を抱えていそうですか。
山本 コロナ禍で毎月80人くらいに食糧品などの支援物資を発送していたんですが、ちょくちょく荷物がこちらに戻ってくることがありまして。なぜだろうと思って連絡をしてみたら、その子が虐待の後遺症が原因で、精神科病棟に入院していたりするんです。
私自身もネグレクト(育児放棄)が原因で乳児院に入っていますが、生後4か月だったので当時のつらい記憶がない。それに成長段階でケアを受けられていたので、今も苦しい、ということもないんです。だから「みんなは虐待の後遺症でそんなに苦しんでいたのか」とそのときに知り、驚きました。
――大人になれば終わりだと思われがちですが、実はそうではない。
山本 子ども支援に関わる私ですら知らなかったことなので、世間には私と同じように、虐待の後遺症についての知識があまりない人が想像よりもたくさんいるんじゃないか、と思いました。同時に、もっとたくさんの人たちに現状を知ってもらうことで、支援の質が向上したり、社会の虐待被害者への向き合い方が変わるのではないかと。
――それで撮影を開始したのがドキュメンタリー映画『REAL VOICE』だった、というわけですね。
山本 はい、去年の3月から撮影を開始して、今月12日に六本木で上映予定です。
――撮影の途中、たくさんの被虐待経験者の方と関わったと思うのですが、改めてそういう方々は普段、どういった生きづらさや困難を抱えていると感じましたか。
山本 多かったのは、周りから「もう大人なんだから、過去のことは忘れなさい」と言われてしまうケースです。子供の頃に虐待をされるというのはものすごく理不尽な暴力なのに、それを被害者に対してなかったことにするよう求めるのは、おかしいと思うんです。