あとは、子供の頃からずっと、虐待被害を信じてもらえないケースもあります。周りから「被害妄想なんじゃないか」「嘘をついている」と言われたり、親の話だけを信じられてしまったり。
そんな経験をずっとしながら成長すれば、誰にもSOSが出せなくなってしまう。みんな「助けを求めても意味がない」と思いながら生きてきたんだと思います。だからこそ、この映画をドキュメンタリーにしてよかったと思っているんです。
親元で育つ子が虐待されずに済むような環境づくりが必要
――『REAL VOICE』というタイトルにも、そうした思いが込められているのでしょうか。
山本 はい。嘘のように思えるかもしれないけれど、本当の話だし、もしこの映画を見て「嘘」と思うようなら、それこそが問題だということを知って欲しいんです。
人間って、自分のキャパシティを超えるような重い話を聞くと、とっさに「嘘なんじゃないか」と思うようにできてるのかなって。自分がショックを受けたり傷ついたりしてしまわないように。防衛本能みたいなものなのかもしれないですけど。
――虐待や貧困の経験を記事にすると、「嘘をつくな」と言われることもあります。なので、経験を打ち明けた時に当事者がどのような目に遭ってきたのか、想像はできます。
山本 相手のことを思いやる想像力が必要ですよね。映画の中では、行政を頼ったのに助けてもらえなかった、支援に至らなかったケースも扱っています。その事実は、行政にも、警察にも、教師の方々にも受け止めてほしいと思っています。
この映画の制作を通して、日本はもっと変わらなければいけないなと強く感じましたね。
――社会全体で向き合わなくてはならない問題に対して、個人で実際に行動に移されているのですね。今後、山本さんがやっていきたいことや、展望などがあればぜひ教えてください。
山本 子供たちが傷つかなくてもいい環境を作っていきたいと考えています。例えば、児童養護施設職員の人員不足を解消することもそうだし、親元で育つ子が虐待されずに済むような環境づくりも必要だと感じています。そもそもの問題の根元を断つというのは、重要なことだと思っているので。
最近、日本では出産や子育てをしにくいと感じる人が増えている、というニュースもありますよね。私自身、どうして日本では、子供が生まれることをこんなにも喜べないのだろうと疑問に感じます。
だからこそ、子供が生まれた時に、周りが「おめでとう」と素直に言えて、産んだ親も「ああ、こんなにかわいい子を産んで本当によかった」と思いながら育てられるような環境を整えていきたいです。
撮影=杉山秀樹/文藝春秋
INFORMATION
児童虐待を経験した若者たちのドキュメンタリー映画「REAL VOICE」
日時:4月12日(水)19:00〜
場所:六本木ハリウッドホール(港区六本木6丁目4−1 ヒルズ ハリウッド プラザ 5F)
ホームページ:https://real-voice.studio.site
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