2022年7月8日、安倍晋三元首相が奈良で撃たれた事件を知った宗教2世の小川さゆりさん。最初は犯人に嫌悪感を抱いていた彼女だったが、山上徹也の人生を知るうちに、感情は複雑なものになっていく……。

 宗教2世という共通項を抱えた彼女が、山上被告に思ったこととは? 彼女の壮絶な半生を綴った初の著書『小川さゆり、宗教2世』より一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/前編を読む)

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「被害者」は私だけじゃなかった

 2022年7月8日、安倍晋三元首相が奈良で撃たれた事件を知ったとき、私は横浜の自宅で仕事をしていました。生まれたばかりの子どもの世話をしながらだったので、日中はニュースを全く見ていませんでした。

「安倍さんが殺されたみたいだよ」

 夕方、帰宅した夫にそう聞いたときは、「えっ」と大きな声が出ました。

亡くなった安倍晋三首相 ©文藝春秋

 でも、私がもっと驚いたのはその日の夜、テレビのニュースを見ていたときです。山上被告が「特定の宗教団体に恨みを持っていた」と語っているという報道を聞いて、息を呑みました。

「これは絶対に統一教会のことだ……」

 すぐにそう思ったのは、安倍元首相が韓鶴子総裁に祝電を送っていたということを、私は教会で知っていたからでした。父も「安倍さんは原理を知っている人だから」と言っていました。「原理」とはもちろん『原理講論』のことです。

 また、「政治家のなかにも統一教会のみ言(ことば)、原理を知ってる人はいるんだよ」ということは、教会で聞かされていたことでもありました。

 2019年の参議院選挙のときには、2世の友人からこんなメッセージが送られてきたこともあります。

「もしまだ投票しに行っていなければ、全国比例で応援してる議員がいて、協力してもらえないかな……?」

 友人があげたのは自民党の当時の安倍派議員の名で、「ちなみに、この○○さんは、安倍首相を支える側の人だよ」とメッセージが続きました。

 私は「特定の宗教団体に恨みを持っていた」という話を聞くまでは、元首相の命が奪われたというただただ恐ろしい事件が起きたんだと感じ、哀しくて不安な気持ちでいっぱいでした。

 安倍元首相が撃たれた瞬間の動画がTwitterに投稿されているのを見て、「日本は安全な国ではなかったの?」と憤(いきどお)りを感じました。

山上被告と同じ境遇…一言では言い表わせない複雑な気持ちに

 山上被告に対する気持ちも同じです。この日本でこんなテロをするなんて、絶対に許せないと私は思いました。

母親の信仰活動に苦しんだ山上被告 ©文藝春秋

 ところが、「特定の宗教団体への恨み」という言葉を聞き、また山上被告は奈良の人だと報道されているのを見て、不気味な感覚に陥りました。私は統一教会の修練会で奈良の教会に行ったこともあり、他人(ひと)ごとだった事件が急に自分の問題として迫ってくるようでした。