その後、マスメディアでも「統一教会」という名前が具体的に報じられるようになっていくなかで、私の胸には何かが芽生え始めました。
山上の親が1億円を超える多額のお金を統一教会に献金していたこと、それによって彼が極貧生活を強いられ家庭が崩壊したこと、山上の母親が清平に行っていたこと……。
教会との関わりのひとつひとつの話は、私にとって身近に感じられてしまうものでした。
私は一言では言い表わせない複雑な気持ちになりました。テロリストだと思って深く嫌悪したその人は、一方で自分と同じ教会の被害者だったのだと同情し、共感してしまう自分がいる。いったいどう考えればいいのだろう、とひどく混乱しました。
Twitterで2世問題を語り始めた理由
私がTwitterで2世問題について語り始めたのは7月13日のことでした。アカウント名は「統一教会の教会長の娘」としました。
Twitterを始めたのは、事件後に統一教会の元2世の人たちの多くが、ネットで声を上げているのを見たからでもありました。
私はそれまで、統一教会のことでこんなに悩んでいるのは自分くらいだ、と思っていました。けれど、私以上につらい思いをしていた人たちがたくさんいたことを知りました。献金で家が貧しくなって、炊飯器に残ったかぴかぴのご飯に味噌を塗って食べていた人、“聖本”を買うために3000万円も献金しないといけないノルマがあったこと──。
統一教会との関係で苦しんだ私は、その気持ちをみんなと共有したいと思ったのです。
最初は、元信者の人と連絡を取ったり、コメントをし合ったりして、「教会にいたときはこうだったよね」という会話をしました。
それから、私はTwitterに自分の2世としての思いを綴り始めました。
教会や両親に身バレする覚悟で顔出しを決意
私が「小川さゆり」と名乗るようになったのは、2世の現状を伝えるメディアの取材を受けたことがきっかけでした。
マスクはしていても、顔を出すのは勇気が必要でした。でも、自分のことをよく知ってもらうためには、顔を隠したり声を変えたりしないほうがいいと思いました。
子どもがいるひとりの女性として顔を出して発言することで、そういう生身の人間が被害にあっていたということを知ってもらえば、問題の深刻さが世の中により伝わると考えました。
仮名にしたのは、いまは夫の名字なので、教会と関係ない夫の家族を巻き込むわけにはいかないと思ったこと、また子どものことを考えたからです。
マスクをしているとはいえ、教会や両親にはすぐに私だとわかると覚悟はしていました。