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《追悼》「もう相棒のような感じです」亡くなった坂本龍一が「古いアナログ・シンセサイザーの音」にこだわり続けた理由

『音楽と生命』 #1

note

「今あるものを壊しながら進んで行かなければいけない」

坂本 鋭いですねぇ。

 これまで何度もアルバムを作ってきましたが、そんなふうに感じたのは、『async』が完成したときが初めてだったんです。もちろん、本来の目的としては、皆に聴いてもらうために、あるいはCDのような複製物が頒布されるために、音楽を作っているはずなんです。だから、自分でも不思議だなぁと思っていたんですよね。

 先ほどの喩えで言うと、地図がなくゴールもわからないまま『async』の音楽を作っていく中で、「山登り」の「終わり方」が大事だと思っていました。自分でも気がつかないうちに「ここで筆をおくべきだ」という瞬間をうっかり過ぎてしまい、よけいなことを足していってしまうということを、非常に恐れていたんですよね。だから、今か今かと筆をおくべき瞬間を敏感に察知しながら、アルバムを作っていたんですが、これは一回性の問題にとても大きく関わっていたのかもしれないですね。

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福岡 音楽でも科学でも、それを言葉にする、あるいは作品や結果が生まれた時点で複製され再現されるものになるという矛盾を抱えながらも、いつも今あるものを壊しながら進んで行かなければいけないというところがあると思います。その意味では、坂本さんも私も同じようなあてどない努力をしているのかもしれません。

坂本 壊すと言えば、たとえば陶器を作って、「これが僕のアルバム。手元に届いたら『壊せ』」というメッセージと一緒にお客さんに届けて、その壊すときに鳴った音が僕の音楽というようなことができないかということを、半ば真剣に思ったりしています。そのために自分の土を探しに行く旅に出るというのもいいかな、なんてね。

記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。

音楽と生命 (新書企画室単行本)

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坂本 龍一 ,福岡 伸一

集英社

2023年3月24日 発売

《追悼》「もう相棒のような感じです」亡くなった坂本龍一が「古いアナログ・シンセサイザーの音」にこだわり続けた理由

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