福岡 本当にそう思います。さっき坂本さんがおっしゃったように、進化というものはエラーの繰り返しですし、別に優れたもの、強いものが生き残ったわけではなくて、たまたま変わったものが生き残ったにすぎないわけです。
その変わり方も偶発的で、自ら壊すことによってあえて不安定さを生み出して前に進んだということなので、まったくアルゴリズム的ではありません。だから、同じ初期条件が与えられたとしても、生命は発生しないかもしれないし、したとしてもこれまでと同じ進化のプロセスを経るかどうかというと、絶対同じことは起きません。
アルゴリズム的思考の落とし穴
坂本 突然変異というのは無数に刻々と繰り返されているわけですし、その時期に何が進化するものとして選ばれるかというのは、その生物が生きている環境や、そこに住んでいる他の生命体の活動とも無縁ではありませんしね。
福岡 そう、お互いのフィードバックがあるわけですから。
進化というものは、与えられた条件ではなく、その生物が他の生物や環境と相互作用しながら作り出したことによって起こる変化です。コーズ・エフェクト(原因と結果)の関係ではないということですね。
坂本 コーズ・エフェクトは、まさに英語的なレンガ積みの積み重ねの思考ですね。けれども、実際の世界はそうはなっていないはずなんです。
AIに代表されるアルゴリズム的思考は、ロゴスのレンガを積んで、仮想世界という壁を築き、その中に閉じこもろうとしている感じがします。でも、それは幻想ですよね。経済も同じで、人間の脳が考えた仮想としての無限を宇宙の有限性の中に持ち込んで、無限に成長する、儲けるということを考えているわけですけれども、本当にバカバカしいと思います。
福岡 アルゴリズム的思考の落とし穴ですよね。
いつか、自然災害のような何らかの大きなカタストロフィーが起こって、積んだレンガが崩れることを目の当たりにすることになると思いますが、またすぐに、そこからレンガを積んでいくという愚かさが人間にはありますね。さっき坂本さんがおっしゃったように、人間の脳がそういう傾向を持っているということなのだと思います。
坂本 ロゴス的ではない、他の思考ができないんですよね。
実際、今こうやって会話していること自体、言葉という分断と固定化の道具を使って、思考を投げ合うしかないわけです。
福岡 それが大きなジレンマですが、私たちはその矛盾を抱えながらも行き来せざるを得ません。言葉やロゴスの呪縛から、本来のピュシスとしての我々自身をいかに回復するかということですね。