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〈追悼・ムツゴロウさん〉「最期はジャングルで野垂れ死んでもいい。『よーしよしよし』で動物と人は一つになる」

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命を救った秋田犬は僕の血も舐めた

――ヒグマといえば、今年札幌市街に出没し、駆除せざるをえない状況になりました。

ムツ 人だけで暮らすとなると、そうなるよね。昔は人が暮らすところに、必ず犬がいた。犬ほど人に対してパートナー性の強い動物はいませんよ。例えばヒグマがやってきたら、犬が追っ払ってくれるわけです。もしそれで喰われてしまっても、犬は命を張って戦ったんだから。その犬が不幸だとは僕は思わないな。

――たくさんの動物と暮らしてきたムツゴロウさん。看取る機会も多かったのでは。

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ムツ いいもんですよ~。そこでも、あそこでも(自宅リビングの隅を指して)看取ってきた。彼らの方が寿命が短い以上、死に立ち合うのは自然なこと。僕にはペットロスというのが理解できない。意味のないことなんか、起きないんだから。

©財界さっぽろ

――印象に残っている犬とのエピソードを教えてください。

ムツ 僕が32歳のとき、一番の愛犬のグルっていう子がいてね。あるとき、無人島で薄氷の張った海にボシャンって落ちちゃったんですよ。僕をジーッと見て、助けてって目で訴えている。だから引っ張り上げて、おんぶして帰ったわけ。そしたら、そのおんぶが嬉しかったんでしょうねぇ。僕と2人きりになると、決まっておんぶをねだるようになった。僕が胃の調子を悪くして、吐血したときのこと。僕は女房に心配かけたくなかったから、血なんて見せたくない。そうするとグルが、血をペロペロ舐めて掃除するわけですよ。

「そんなにうまいのか!」と言って僕も舐めてみたら、苦くてとても舐められたもんじゃない。さらに仕事中、書斎のストーブの調子が悪く、一酸化炭素中毒になりかけたことがありました。そのときも、床に寝込んだ僕のところにグルが飛んできて、顔を舐めて元気づけ、ドアまでズルズル運んでくれた。グルに命を救われたわけです。そのほかにも僕は“犬と人との奇跡”を山ほど見たり聞いたりしてきました。飼い主が困っていると、犬は助けようとか、心配する素晴らしい動物。そういう感動をいつも感じてきたのがムツゴロウ動物王国でした。

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