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〈追悼・ムツゴロウさん〉「最期はジャングルで野垂れ死んでもいい。『よーしよしよし』で動物と人は一つになる」

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「よーしよしよし」で動物と人は一つになる

――ムツゴロウさんといえば、動物に対する「よーしよしよし」という優しい掛け声が印象的です。どのような意味があるのでしょうか。

ムツ (筆者の手に触れて)はい、いまキミは幸せになったでしょう。優しく触れて「よしよし」と声をかけたら、動物の心には「警戒しないでいいよ」「キミが好きだよ」と届くもの。そしたら脳内にオキシトシン(幸せホルモン)が流れる。動物に触れるとき、恐怖心とか邪心があってはいけない。動物は心を見抜きますからね。心を“空の空”にして、あらゆるところに触れる。肉球を触らせてくれたら、信頼してくれた証。みんな母親を慕う子どものようになるんですよ。30分も一緒にいれば、もう僕のもの(笑)。噛まれたりなんだりってこともあるけど、違う種の生き物が触れあうんだから、そういう事故が起こったって仕方ない。できるだけ少ないほうがいいけど、深くは考えていませんよ。

©財界さっぽろ

――人間も動物に触れると、幸せな気持ちになりますよね。

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ムツ そう。いまは社会に馴染めない人間を「グレーゾーン」なんて一括りにしたりするけど、そもそも動物に触れたこともない人間が、人間同士うまくいくとは僕は思えない。動物と人を区別する根底が良くないと思いますね。他者との違いを知り、生きとしいけるものと共存していくことを理解しなければ。以前、知人に心を病んでいるという高校生の男の子を紹介されましてね。「ムツ牧場」に住み込みし、毎日馬のそばで暮らしてもらいました。約1カ月、馬小屋掃除に精を出して生活すると、彼は生まれ変わったように「おはようございます!」と元気に挨拶できるようになりました。いまでは弁護士をしていますよ。

掲載号の「わんハート」

まだまだ夢の途中でも、いつ死んでもいい

――今後の展望を教えてください。 

ムツ 2年前に心筋梗塞で倒れ、一時は意識不明になりました。僕にあとどれだけの時間が残されているかはわからないけど、最後に犬のことをまとめた本を完成させたいと思っています。娘の力も借りてね。いま暮らしている中標津は、自然に囲まれたいいところですが、動物と暮らす楽園にはまだまだほど遠い。馬に乗って買い物しに行ったり、店に馬をつなぐロープフックなんかができれば…と夢を馳せてしまいます。一方で、いつ死んでもいいと思っている自分がいてね。最期はジャングルで野垂れ死に、動物やアリに喰われて生を全うしたい。いずれにしても、この歳まで好きなことをして生きてこられたのは、私の人生に、いつも動物がいたからじゃないでしょうかね。

◇ ◇ ◇

 なお、上記の記事は、財界さっぽろの新ウェブメディア「財さつJP」でも無料公開中。「わんハート」の最新号は6月24日に発売される。

〈追悼・ムツゴロウさん〉「最期はジャングルで野垂れ死んでもいい。『よーしよしよし』で動物と人は一つになる」

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