当時86歳という年齢をカメラの前では感じさせなかったムツゴロウさんだが、その裏では加齢による心身の不調に悩まされていたようだ。
「調子のいい日と悪い日が交互にやってくるようでした。調子が悪い日は、何も思い出せないくらい記憶があいまいになってしまうと話していました。実は取材の前日にも『やっぱり明日の取材は難しいかもしれません』と相談の電話がありました。運よくインタビュー当日は調子が良かったようで、昔のこともよく思い出して話してくれました」(前出記者)
記者の質問に対し、記憶を掘り起こすのに15秒ほど考えることもあったという。体力的にも衰えは隠せず、一度インタビューを中断してムツゴロウさんが横になって休憩することもあったようだ。
「ムツゴロウさんは東京大学理学部出身。戦後間もない時代の東大生ですからとんでもなく頭のいい人です。その明晰だった頭脳がだんだん昔のことを思い出せなくなったり、体がいうことを聞かなくなることに、本人はもどかしさを感じていたようです。どこか憂いているような、哀愁も感じました」
「自分は長く生きすぎた。もう十分です」
着実に老いていく自分を、ムツゴロウさんは見つめていた。しかし、そこに不思議と悲壮感はなかった。長年、自然の中で命がけで動物と触れ合っていたムツゴロウさんにとって、死は特別なものではなくなっていたようだ。
「死や老いることについて、ムツゴロウさんはいろいろな話をしてくれました。その中でぽつりと『自分は長く生きすぎた。もう十分です』と漏らしたんです。YouTubeはまだ続けたいとおっしゃっていましたが、死については達観している印象でしたね。動物たちと一緒で、『自然に還るだけ』と考えていたようです」
自分の名前にかけて656回まで続けたいと語っていたYouTubeの動画は104回目で更新が止まってしまっている。まだまだ、動物を愛するあなたの姿を見たかった、そう思わずにはいられない。
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