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素性がわからない大人を「信用」してしまう10代の女性たち

 2022年2月19日には、NHK EテレでETV特集「ある子ども」を放送した。これは「グルーミング」を実際に若者たちに疑似体験させる実験的なドキュメンタリードラマだった。オーディションで選ばれた10代の女性たちが、ドラマ仕立てのワークショップでグルーミングを疑似体験する。

 女子高生がSNSでやりとりした見知らぬ男に誘われてついて行こうとする。その間際、彼女のことを心配する同級生の男子が声をかけて止めようとする。その時に実際に彼女はどう行動するのか。彼女自身にその場で決定を委ねようとするワークショップ形式のドラマだった。

 女子高生を演じていた女性は、見知らぬ男を信用して彼について行く道を選んでしまう。

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 知っている顔なじみの同級生よりも、SNSでのグルーミングで親しくなった(と感じた)素性がわからない大人を「信用」してしまう。衝撃的な場面だった。頭の中の理屈では「そっちは行ってはいけない」とわかっていても、感情に支配されて行動してしまう。

「グルーミング」にあった子どもの心に対する深刻な支配を可視化させていた。

NHK EテレのETV特集「ある子ども」より

男の子も被害にあうことがある「グルーミング」の危険性

 NHKでは2021年、2022年と2年がかりで、子どもたちへの性暴力における「グルーミング」の危険性を問題提起した。

「クローズアップ現代」では、女の子だけでなく男の子も被害にあうことがあると注意を促していた。

「グルーミング」の手口として「すごくやさしい」ということにも触れていた。そしてこの手口で精神的な影響を受けると、理屈でなく感情を支配されることにも警鐘を鳴らしていた。

 こうした手口を、BBCが映像化したドキュメンタリーでのジャニーズ事務所の「合宿」での出来事やその後の元少年たちの証言に照らし合わせて考えていくと、元少年たちが大人になった現在も「グルーミング」の深刻な影響を受けていることが腑に落ちる。

 大きな違いはといえば、被害を受けた「子ども」が女の子なのか男の子なのか、という点だけである。もし「子ども」が女性であれば……と想像すると、加害者に対して強い怒りを覚える人が少なくないだろう。

 しかし、「グルーミング」が日本社会に根深く巣くっている現状を浮き彫りにしたのは、NHKでも朝日新聞でもなく、イギリスの公共放送BBCだったのだ。