故ジャニー喜多川氏をめぐる報道ドキュメンタリー番組「Predator : The Secret Scandal of J-Pop(J-POPの捕食者~秘められたスキャンダル)」は、日本国内でもBBCワールドニュースで3月18日(土)から20日(月)にかけて計4回、流された。その内容を改めて精査してみると、“日本は子どもへの深刻な性被害に対して鈍感な社会”だと断罪する内容だった。
(全2回の2回目/前編を読む)
性暴力被害を生む「グルーミング」という根深い問題
ドキュメンタリーのキーワードである「グルーミング」という手口が、子どもへの性暴力被害を生む背景としていかに深刻なものか。それはNHKも2021年と2022年に放送した報道番組を通じて警鐘を鳴らし、問題提起していたことを(前編)でお伝えした。
現在、子どもへの性暴力被害を生む背景として、欧米を中心に世界的に問題視されている「グルーミング」という視点でジャニー喜多川氏の疑惑を検証し直そうということがこのドキュメンタリーの狙いのように思える。
つまり、「グルーミング」についてきちんと理解していないと、このドキュメンタリーを理解し、問題の深刻さを感じとることができない構図になっている。
番組内では、取材するBBCのモビーン・アザー記者が、カメラに向かって「グルーミング」に関連して日本社会に違和感を吐露する場面がたびたび登場する。そうしたシーンを見てみよう。
ジャニー喜多川氏について証言した被害少年が示した“愛着”
アザー記者は、取材した元ジャニーズの少年たちに「なぜ告発しないのか」と片っ端から尋ねている。告発しない背景として浮かび上がるのが「グルーミング」による束縛である。
元ジャニーズJr.のリュウ氏とのインタビューでのやりとりでも「グルーミング」の影響が見てとれる。
記者 それ以上の行為があったと知っていましたか?
リュウ氏 事細かには言わないですけど、その、それ以上になっているということは聞いています。
記者 ジャニー氏に非があったとは言いたくないようですが、なぜなのでしょう?
リュウ氏 これはなんでなんだろうなあ。これはやっていることの良し悪しは絶対に悪いことなんですけど。簡単に言えば、ジャニーさんのことが嫌いじゃない、むしろ好きなんで僕は。今でも大好きですよ。
記者 失礼ですが、理解できません。
リュウ氏 本当に。ジャニーさんは本当にすばらしい人で。僕も本当にお世話になって……。すごく愛をもって接してもらえたと今でも思っていて。僕にとってはそこまで大きな問題じゃないんで、こうやって笑ってしゃべれているのかなというところがありますね。
この後でアザー記者は「グルーミング」に関連して感想を吐露している。
リュウ氏の言葉の一部は異様に覚えました。本人に自覚がなく、まさにグルーミングです。グルーミングは、加害者が被害者を懐柔して、特別な絆があると思い込ませることです。
リュウ氏は加害者に対して、敬意どころか愛情すら持っています。
それほどジャニー喜多川氏の強い影響下にあるのです。