プレサンス本社に「ガサ入れ」
その日の取調べの最中のこと。山口検事は突然、驚いたようにこう口走った。
「社長、会社の方にガサが入ってしもたわぁ。腹立つわぁ」
プレサンスの本社事務所へ強制捜査が行われたのだという。いきなりのことで、おそらく大変な混乱状態に陥っているだろう。
たったいま、知らされたかのような口ぶりだったため、
「仕事中に踏み込まれてあいつらかわいそうやなぁ」
と返答すると、
「そうやね。ひどいねぇ」
同情してくれた。
同じ特捜部員なのだから、あらかじめ知らされていないはずはないのだが、迫真の演技をわたしはすっかり信じてしまっていた。山口智子という人物はつねにわたしの側に立つ検事さんなのだとすり込まれていたのである。
この日の取調べの終了間際、山口検事から、
「小森さんとか山本さんとかとあんまりしゃべらんといてな」
と言われた。
わたしだけでなく、会社の幹部もまた、プレサンスへの家宅捜索は明浄学院内の金銭トラブルについての反面調査のために行われたものだと思っていた。
特捜部員がついたウソ
総務部長の友池が特捜部員に、
「わたしどもの社員のなかに被疑者はいますか?」
と尋ねたところ、捜査官が、
「それはない」
と言明したことも理由のひとつだった。
あくまでも捜査に協力してあげているというスタンスであり、プレサンスの関係者に関わりのある事件だとは露ほども思っていなかった。
だが、プレサンス子会社の代表である小森は最初から被疑者だった。
なぜ、このとき特捜部員がウソをついたのかはわからない。
※本文中に登場する事件関係者・関係会社の一部には仮名を使用しています。