2019年10月、大阪の不動産会社プレサンスコーポレーション(東証一部上場)の創業社長である山岸忍氏の携帯電話が鳴った。「ちょっとご協力いただきたい」と話す電話の主は、大阪地検特捜部。山岸氏が検事室で聞かされたのは、同社幹部が進めていた学校法人「明浄学院」の土地売買をめぐる驚愕の事実だった。
のちに山岸氏は業務上横領の濡れ衣を着せられ、検察の執拗な追及を受けることになる。しかし、山岸氏は決して屈しなかった。『負けへんで! 東証一部上場企業社長 vs 地検特捜部』(文藝春秋)には、会社を失いながら、最強の弁護団チームとともに「完全無罪」を勝ち取るまでの全記録が綴られている。
ここでは本書を一部抜粋して紹介。山岸氏が「オレの金、即座に熔けとるやないか」と愕然としたお金の流れとは?(全3回の2回目/最初から読む)
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【事件の経緯】プレサンス社の土地の仕入れ担当幹部・小森氏は学校法人「明浄学院」の土地をめぐる商談を推進するため、明浄学院への「手付金」として「社長個人のお金、18億円貸してください」と頼んだ。山岸氏はなりゆきから多額の自己資金を貸すことに。ところがそのお金は山岸氏の知らぬ間に、予想だにしないところに流れていたことが明らかになる。
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Tシャツ短パン姿で検事室へ
午前11時半過ぎに到着。検事室に案内され、扉を開けると、
「社長、いらっしゃーい」
テレビ番組『新婚さんいらっしゃい!』さながらの甲高い声で出迎えてくれた女性は矢継ぎ早に言葉を放つ。
「検事の山口です。こっち、座って座って。いやー、会いたかったわぁ。わたしも同志社なんです。偉大な先輩として、尊敬してるぅ。いや、ホンマにあこがれとったんよ」
まずわたしの衣装を指さして大爆笑。
「社長、なんちゅう格好してはるの。もうすぐ11月やでぇ。寒ないん?」
「ボク暑がりで、楽なんが好きなんです」
琵琶湖畔で自転車に乗ろうと向かっている途中にUターンしたので、上下アンダーアーマーのTシャツ短パン姿だったのだ。
取調べのため、携帯電話を没収
その後、山口検事は携帯電話を預かりたいと言い出した。
「そんなん、あきませんわ。商売道具やでぇ。いつ重要な電話がかかってくるかわかりませんし」
「ダメやねん。出して」
「なんでですのん?」
「ゴメン、決まりやねん」
「うーん。しかたない。ほんなんやったら、帰る前に返してくださいね。そうじゃないと仕事できひんし」
「わかった。それは約束する」
そのあと、取調べに入る。