2019年12月、大阪の不動産会社プレサンスコーポレーション(東証一部上場)の創業社長である山岸忍氏は、学校法人「明浄学院」の土地売買をめぐる業務上横領の容疑をかけられた。山岸氏本人による手記『負けへんで! 東証一部上場企業社長 vs 地検特捜部』(文藝春秋)には、会社を失いながら、最強の弁護団チームとともに「完全無罪」を勝ち取るまでの全記録が綴られている。

 ここでは本書を一部抜粋して紹介。明浄学院の土地売買を主導した同社の幹部・小森氏の虚偽供述によって、山岸氏は「横領に共謀した」という濡れ衣を着せられてしまった。なぜ小森氏は取調べでウソをついたのか――弁護団チームの粘り強い「取調べ録音録画」の解析によって浮かび上がったのは、検事による恫喝じみた取調べの実態だった。(全3回の3回目/最初から読む

◆◆◆

ADVERTISEMENT

 なかでも手間取ったのは田渕大輔検事による小森の取調べ録音録画の解析である。

「ふざけた話をいつまでも通せると思ってる」

「検察なめんなよ」

「小学生だってわかってる、幼稚園児だってわかってる。あなたそんなこともわかってないでしょ」

「ウソまみれじゃないか」

「本当ににぶい人ですね」

 田渕検事が小森の言うことに一切耳を傾けようとせず、机をたたきながら長時間、罵倒するシーンはいくらでも見つかる。これだけでも十分に取調べの問題を示すことはできる。

※写真はイメージです ©iStock.com

 しかし、小森が法廷でも偽証した場合、取調べで罵倒されたとしても法廷での証言はその場に田渕検事がいないのだから関係がないなどと反論されかねない。だからこそ、問題のある取調べの結果、小森の供述がねじ曲げられたとわかる場面を抽出し、なぜ法廷でもウソをつくのかという理由を説得的に説明できなければ、小森が虚偽を述べていることを完璧に立証することは難しい。

 そして、1400ページにおよぶ反訳を読み返しても、なかなかターニングポイントをつかむことができないようであった。

虚偽供述が始まった瞬間を発見

 小森は2019年12月5日に逮捕されてからもしばらくは「わたしに対し再建資金と説明した」と言い続けていた。

 延々と続く罵倒シーンを注意深く解析しても、田渕検事の発言ばかりで小森の心境がわかりにくく、なかなか供述を変える端緒が見つからない。

 西弁護士らが何度も反訳書を片手に録音録画を見続けてようやく見つけたのは公判直前である5月のことだった。