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ゲレーロが語ったキューバ人選手の辛い“現実”

 さて、前置きが長くなってしまった。なぜ文春野球の場を借りてまで、僕はわざわざこんな楽しくない話をしているのか。本題に入ると、「せっかくなのでこの機会に、キューバ出身の野球選手達が置かれている状況を、みんなでもっと知っておきませんか? だってこれからもキューバとの付き合いは続いていくんですから」と提案したいからだ。

 そのテキストとして最適なのは、ジャリエルのことを報じ続けているフランシス・ロメロ氏の著作『El sueño y la realidad』(邦訳すると「夢と現実」)なのは間違いない。1960年から現代に至るまで、キューバの野球選手達が一体母国でどんな扱いを受けて、どんな思いを抱いて亡命し、そして“食い物”にされてきたが膨大なデータと取材に基づいて書かれている。イカダに乗ってキューバを亡命し、中日ドラゴンズで成功を掴んだダヤン・ビシエドは希有な例なのだ。波にさらわれてそのまま行方不明になった人々は数知れない。そういった辛い“現実”が綴られている傑作だ。

 ただ、残念ながらこの書籍は日本の書店では入手困難な上、スペイン語でしか出版されていない。そこで紹介したいのが、かつて中日と巨人に在籍していたアレックス・ゲレーロが、2017年3月28日付の中日スポーツで、ロングインタビューに答えている。あまりにも赤裸々な内容だったので、当時切り抜いて保管しておいた。気になる人はバックナンバーを探して欲しいのだが、今回はそこから一部を引用して紹介する。聞き手は、宮崎厚志記者だ。

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「10歳のときだ。遊んでいるときに僕が速い球を投げていて、小学校のチームのコーチの目にとまった。その人に推薦されて、地方の優秀な子どもが集まるチームのテストを母親と受けに行った。その場で合格と言われ、11、12歳のチームに飛び級で入った(中略)14歳のとき。『エイデ』と呼ばれる全寮制の国営スポーツ学校に入った」

 そして17歳のとき、ゲレーロはキューバ国内リーグでデビューを果たす。

「非常に珍しいことだと思う。キューバには才能を持った若手がたくさんいて、物凄い競争を勝ち抜かないといけない。それに加えて出身の家庭が政府に忠誠を誓っていること。そうでなければ選手になれない。(中略)野球選手に海外から電話があったことを知られると目を付けられる。秘密警察が家の前をよく通り、監視されていると感じた」

 野球選手になるために競争があることは日本も同じだが、政府に忠誠を誓う必要もなければ、秘密警察の目を気にする必要もない。キューバが独裁国家であることを、プロ野球ファンはもう一度強く認識しておくべきだと思う。ゲレーロだけがこういった体験をしているとは考えづらい。そして2013年1月13日深夜、ゲレーロは亡命を実行する。4人乗りの小舟に乗り、2日半かけてドミニカ共和国へたどり着いた。

「国内リーグで7年間対戦相手だったヨニエス・セスペデスが11年に亡命し、アメリカで成功した。『あいつができるのなら僕も……』という考えが頭の中をグルグルと回ったよ。95%のキューバ人はいい生活をしていない。(中略)兄も18歳で国内リーグ入りした、将来を嘱望された選手だった。ただ19歳のときに結婚して子どもが生まれ、安定した仕事に就くことを決めた。コーチ達からは引き留められたが、当時の兄の月給はたった30ドルだった」

 一説によると、NPBに派遣されているキューバ人選手が受け取っている給料は、球団が支払っている総額の約3割程度だと言われている。「それでも十分な額だろう」と考えるか。それとも、「どうして自分が稼いだ金額の7割も持っていかれなきゃいけないんだ?」と考えるか。それはそれぞれの生き方次第だが、後者を選んだとして、不思議なことは何もないだろう。亡命後も、キューバ国内へ電話をかけたり、送金をすることは可能だ。日本では「金の亡者」のような扱いを受けていたゲレーロだが、彼はキューバに残した家族たちの分も稼がなければいけなかったことだけは覚えておいてほしい。

 念のために書いておくと、ジャリエルが仮に本当に亡命だったとして、「怒るな」というつもりは毛頭ない。ドラゴンズファンからすれば「裏切り」と映ってもしょうがない行為だ。だが、ライデルだけではなく、NPBにはまだリバン・モイネロ(ホークス)やアリエル・マルティネス(ファイターズ)らも在籍している。今後もキューバから選手が“派遣”されてくる可能性だってあるし、ビシエドのように亡命した後に入団するケースもあるだろう。キューバ国旗を振って選手を応援する前に、彼らがどんな環境で野球をやってきたのかを知ることは、ファンにとっても決して無駄にならないと僕は思う。

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