統計分析が進んでいなかった当時は、打率や安打数を重視していた
また、これまでの比較を読んで、「イチローと松井を貶めている」と感じた人もいるかもしれないが、そんなつもりはもちろんない。
イチローは、ステロイド全盛期に、他の選手と全く異なるスタイルでプレーしてファンを魅了した。バットをボールに当てる技術では、史上最高クラスだと評される。アメリカの野球ファンと話すと、今でもみんな興奮してイチローのスピード感あふれるプレーを称賛する。米野球殿堂入りも間違いない。しかし、データが示す実際の打撃での貢献度という点では、当時の評価に比べると低いのは事実だ。出塁率と長打率が、そこまで高くないからだ。
もちろん、統計分析が進んでいなかった当時は、打率や安打数が重視されていたので、「イチローはそれに応えただけ。求められていれば出塁や長打が出るスタイルに変えたはず」という指摘も分かる。また、長打では秀でた数字ではなかったのに、トップクラスのWARを記録していたということは、いかにイチローの守備や走塁が素晴らしかったかを物語っている。FanGraphsによると、イチローの走塁での通算貢献度は、リッキー・ヘンダーソン、ティム・レインズに続くメジャー史上3位である。
松井秀喜は今でもニューヨークのファンから人気がある
大谷と同じように、イチローも「他の日本人選手と比べて活躍した」のではなく、最多通算安打記録を持つピート・ローズに並ぶような、メジャーリーグ史に名を刻む選手として讃えられている。イチローを他の日本人選手と比べるのも、また過小評価につながるだろう。
松井秀喜も、人気球団ヤンキースで中軸を打ち、ワールドシリーズなど大事な場面で活躍したことで、特にニューヨークのファンからは今でも人気がある(ただし、日本で強調される「ヤンキースの4番」に、アメリカ人は同じような特別感は抱いていない。アメリカでは最高打者は「3番」というイメージが強い)。だが、アメリカに来た時には28歳で、大谷に比べると5年も遅かった。
一般的に、野球選手がピークを迎えるのは、27~30歳だと言われる。なので、メジャーリーグを取材するものとしては、どうしても才能ある選手には早く海を渡って挑戦してもらいたいと思ってしまう。
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